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中西宏明経団連会長、原発政策について「国民が反対するものは作れない」「一般公開の討論をするべき」と発言。政府の原発再稼働政策に疑念を示す(各紙)

2019-01-06 00:58:35

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 各紙の報道によると、経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は年初の記者会見や、報道機関とのインタビューで、政府の原発政策について「国民が反対するものは作れない。全員が反対するものをエネルギー業者や日立といったベンダー(設備納入業者)が無理に作ることは民主国家ではない」と指摘。「真剣に一般公開の討論をするべきだと思う」と述べ、改めて原発についての国民討議の必要性を提起した。

 

 中西氏の出身企業の日立製作所は、昨年末、英国での原発新設計画断念の方針を打ち出している。同社は国内でも沸騰水型の原発を作ってきた。だが、東日本大震災後8年経っても、東日本地区での原発は再稼働していない点を指摘。「国民が反対するものは(設備事業者が)作れない」と明確に言い切った。

 

 これまで経団連では前会長の榊原定征氏までは、「原子力は最も重要な基幹エネルギー」と述べ、安倍政権が進める原発再稼働推進の路線と同調してきた。しかし、政府主導の原発輸出戦略は、コスト高や安全不安で相次いで各地で行き詰まっている。

 

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 原発の経済合理性が失われていることは、わが国だけではなく、欧米でも同様。わずかに低コストで原発を建設できる中国等の途上国での利用が見込まれるが、安全性の問題等で将来のコストアップは不可避となっている。日立自身、政府の路線に乗っかった英国での原発建設計画がコスト上昇で採算が合わなくなり、暗礁に乗り上げている。

 

 今回の中西氏の発言は、原発の経済合理性がグローバルに失われる中、それでも原発を推進するには、国民の同意が必要との主張を示したものだ。その背景には、政策として原発を推進するなら、国が予算を投じて安全対策等のコストを肩代わりするなどの措置を求める意図もあるとみられる。

 

 一方で、同氏は再生可能エネルギーについても「日本には適地が少なく極めて不安定。太陽光も風力も季節性がある。次世代送電網も新しい投資が行われていない」として、課題が多いとの見方を示した。つまり、エネルギー政策の先行きが見えないことを産業界の代表として率直に認めたことになる。

 

 中西氏が会長を務める日立の前会長である川村隆氏は現在、東京電力ホールディングス会長を務める。東電は、福島第一原発事故を起こし、膨大な被災者への賠償コストを政府に肩代わりしてもらいながら、新潟県柏崎刈羽原発の再稼働を目指している。これまで中西氏は川村氏との関係もあり、政府の原発再稼働推進政策の一翼を担っているとみられてきた。

 

 しかし、今回そうした憶測を振り払うようにして、「国民的議論の必要性」を強調したのは、日立の英国への原発輸出計画が行き詰まったことが大きいとみられる。英国でもコスト高で計画が進まない。日本だけが政府主導で、強引に再稼働を進めても、住民の反対や事故リスクが軽減されるわけではない。経営者として、グローバルな環境下での原発事業の採算性をはじいてみると、「あり得ない事業」だと認めた形だ。

 

 安倍政権は原発輸出を成長戦略と位置付け、英国だけでなく、トルコやベトナム等にも首相自らが先頭に立って働きかけてきた。しかし、トルコやベトナムでもコスト面で行き詰まっている。日立では、このまま政府の路線に乗せられたまま進むと、東芝が、経産省の政策に基づいて米国の原発会社を買収した事から大損失を被った事例の「二の舞い」になりかねないとの危機感もあるとの見方もある。

 

 一方で、再エネ政策についての指摘も見逃せない。発電適地の課題のほか、「次世代送電網への投資」が起きていない点への言及は、これも経産省の再エネ政策の「失敗」を突いたものといえる。電力事業を自由化しながら、再エネ電力の接続は既存の電力網のままで、再エネ事業者にとって圧倒的に不利で高コストでの条件を科す形になっている。

 

 本来ならば、送配電事業は既存電力会社から、法的にも分離するほか、新規参入事業者に市場を開放しないと、新規の投資は起きてこない。独占的な公益事業への競争導入は、NTTの改革の際、NTT分割と平行して新規参入事業者を増やして、競争を進めた結果、通信料金の低下と新規事業の多角化につながったという経験をわが国は持っている。

 

 にもかかわらず、経産省は電力事業においては、そうした本格的な競争の導入を行わず、新規の再エネ事業もコスト高の壁の前に事業者が立ち尽くす状況を政策的に作り出している恰好だ。経団連会長はそこまでは言及しなかったが、経営者の視点からみると「あり得ない政策」は長続きしない、という当たり前の判断に尽きるようだ。

 

 今年はみんなが忖度せず、正直に、悪いものは悪い、と言える年になるのかもしれない。

 

https://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000144312.html