HOME |2018年の米国のCO2排出量、前年比3.4%増と大幅増加に転じる。過去20年間で実質最大の増加率。トランプ政権下での温暖化対策の“緩さ”が反映。米調査機関が推計(RIEF) |

2018年の米国のCO2排出量、前年比3.4%増と大幅増加に転じる。過去20年間で実質最大の増加率。トランプ政権下での温暖化対策の“緩さ”が反映。米調査機関が推計(RIEF)

2019-01-11 18:31:22

USA1キャプチャ

 

  トランプ政権下で、米国が温暖化政策を180℃転換したことが、米国のCO2排出量に明確に表れた。米調査会社の推計によると、2018年中の全米のCO2排出量は前年比3.4%増と、2010年以来となる大幅な上昇となった。2010年はリーマンショックからの景気の急回復が原因だっただけに、トランプ政権下でのCO2排出量の増加への転換は、過去20年間で実質最大の増加率といえる。

 

 米調査会社ロジウムグループ(Rhodium Group)が調査報告書で明らかにした。同社は環境保護庁(EPA)の推計に先立って、2018年の1月~8、9月期の石油消費量および発電量に関する米政府のエネルギー統計、その他の官民データに基づいて事前推計した。

 

 それによると、米国のCO2排出量は2007年に60億㌧を上回って以来、2015年末までほぼ低下を続け、総減少率は12.1%、年間の平均減少率は1.6%だった。2016年以降は減少スピードが落ち、17年は0.8%減とほぼ横ばいに転じ、それが18年には逆に、3.4%増と増加した。

 

 過去20年間でみると2010年(3.6%増)に次ぐ伸び率だ。ただ、2010年は前年がリーマンショックの影響で、経済全体が低迷、CO2排出量も7.2%減と急減した後の反動で増加したという特異な条件があった。それに比べると、18年は明らかに「トランプ要因」ということになる。

 

2018年の発電種別の発電量・同容量の増減
2018年の発電種別の発電量・同容量の増減

 

 しかし、トランプ政権が擁護する石炭産業自体の低迷は18年も続いた。発電所の閉鎖が相次ぎ、石炭の発電容量は1月~10月の実績で11.2GWの減少となった。12月までにもさらに2.5GW分の石炭火力発電所の閉鎖が見込まれており、年間の石炭火力発電能力の減少としては過去最多になった見通しだ。一方で、太陽光は5.7GW、風力は2.2GW(10月までの実績)で、石炭火力を代替するほどには増えていない。

 

 実は、伸びたのは天然ガス発電。石炭火力の減少分を上回って、14.9GWの新規発電容量が追加された。ガス発電所の閉鎖分を差し引いても、石炭火力の年間減少分を上回った。発電量でみると、10月までの実績だけで166bn kWhで、石炭火力の減少分の3倍以上を発電したことになる。

 

 天然ガスは石炭よりはCO2排出量は少ないものの、太陽光や風力などの再生可能エネルギー発電とは違い、CO2を排出することに変わりはない。結果的に発電部門全体でのCO2排出量は3400万㌧増え、前年比1.9%増となった。

 

セクター別のCO2排出量の変化
セクター別のCO2排出量の変化

 

 CO2排出量では発電部門を3年連続で上回り、米国最大のCO2排出部門となったのが、輸送部門だ。ガソリンへの需要は前年比0.1%減とほぼ横ばいだったが、CO2排出量が乗用車よりも多いトラック輸送と航空輸送空の排出量がそれぞれ、3.1%増、3.0%増と伸びたため、輸送部門全体での排出量は1%増となった。

 

 部門別で大きく伸びたのが、住宅や商業ビルなどの不動産部門からの排出量だ。2004年以来となる10%増となった。例年よりも冬が寒かったことが一因とみられるが、17年も冬は異常に寒かったことから、気候要因よりも、人口の増加や電力以外の建物のエネルギー需要等の増加が要因とみられる。

 

 産業部門の排出量増加も顕著だ。経済活動が順調だったこともあり、2018年の産業部門の排出量は過去最高の5500万㌧になったと推計される。すべての産業部門の出荷額が9月までで7.3%増と、前年の4.5%増を上回ったことが大きい。

 

 産業部門での温暖化対策は政策課題ではあるが、調査したロジウムは「連邦レベルでも、州レベルでも効果的な対策はほとんどとられていない」と指摘している。このまま産業部門からの排出増加が続くと、カリフォルニア州では2020年までに産業部門が第二の排出源隣、テキサス州でも2022年までには、最大の排出源になる可能性があるという。

 

セクター別の排出量の推移
セクター別の排出量の推移

 

 報告書は米国がパリ協定で約束した国別目標(2025年までに2005年比で26~28%のGHG削減)を達成するには、今後の7年間で、CO2排出量を年平均2.6%減以上の削減を続ける必要があるとしている。この減少率は、2005年から17年の平均減少率の倍近い。18年の大幅増加を再び減少傾向に戻し、さらに倍近い減少ペースを維持しなければならないことになる。

 

 ロジウムは「やる気があれば実現可能だ。ただ、明瞭な政策変更が必要であるのと、市場が温暖化対策を推進し、それらを実現する技術開発の進展が必要」と指摘している。トランプ政権下の温暖化対策には、そうした政策、市場、技術のいずれも十分でないといわざるを得ない。

https://rhg.com/research/preliminary-us-emissions-estimates-for-2018/