シェル、米石油関連業界団体から離脱を表明。気候変動対策での不一致が理由。同社CEOはパリ協定の目標達成支持を表明。低炭素社会に向け石油メジャーの足並みの乱れ表面化（RIEF）
2019-04-04 16:49:37
石油メジャーの一つ、英・蘭ロイヤル・ダッチ・シェルは2日、気候変動対策に関する方針の不一致を理由に、米国の石油精製ロビー団体の米燃料石油化学製造者協会（AFPM）から2020年に脱退する意向を明らかにした。AFPMの路線と異なり、シェルはパリ協定の目標達成の支持を表明した。化石燃料産業最大手の足並みに、明確な違いが浮き彫りになった。
AFPM（American Fuel & Petrochemical Manufacturers ）は石油関連企業のロビー団体として知られる。米メジャーのExxon Mobil Corp、 Chevron Corpのほか欧州系の 英BPや仏Totalなど、約300の石油関連企業が参加し、米国だけではなく、国際的なロビー活動の拠点となっている。加盟企業全体で110の石油精製施設と、229の石油化学プラントを操業している。
シェルは主要業界団体19団体への加盟状況を、初めて包括的に見直しする作業を実施した。その結果、AFPMがとっている気候変動対策は、シェルの方針と「重大な不一致」があることが明らかになったという。シェルは昨年、投資家の圧力を受け入れて、経営層の報酬とリンクした産業主導のCO2排出量目標を設定する計画を導入するなど、他の石油メジャーより一歩、前に出た対策を打ち出していた。
CEOのベン・バンブールデン（Ben van Beurden）氏は「AFPMはパリ協定で定められた目標への支持を表明していない。シェルはこの目標を支持する。同協定が制定されて以来、気候変動に対応する緊急行動の必要性は、一段と明確になっている。社会の期待は変化しており、シェルの見方も発展している」と説明した。
シェルはパリ協定との整合性のある経営方針をとっていくことを強調する一方で、AFPMがカーボン価格付け政策や、低炭素技術促進等に後ろ向きであることにも同意できない、との立場を明らかにした。
シェルとAFPMはここ数ヶ月間、再エネ燃料の使用に関して争ってきた。シェルや他の大手精製会社らは、バイオ燃料など、より低炭素の燃料開発に投資しているが、AFPMはバイオ燃料等をガソリンに混入したり、低炭素燃料開発に補助金を供給するなどの政策に強く反発するロビー活動を展開してきた。
AFPMのCEOであるチェット・トンプソン（Chet Thompson）氏はシェルの離脱表明に対して長年の協力関係に謝意を示すとともに、「われわれは引き続き、環境に対して責任あるものとして対応するとともに、燃料や石油化学製品への信頼ある、適正なアクセスを維持するための政策推進のため、石油精製企業や石油化学産業のために行動を続ける」と、静観の姿勢を示すコメントを出した。
石油関連業界での業界団体と構成企業の意見の不一致は、AFPMだけではない。シェルは、Exxon、BPなどとともに、ここ数年の間に、保守系の政治グループであるALEC（American Legislative Exchange Council）から、そろって離脱している。
また、シェルは、今回の業界団体の見直し作業で、AFPM以外の他の9つの石油・ガス業界団体についても、「いくつかの不一致」があったとしている。全米最大の業界団体であるAPI（American Petroleum Institute）もその一つ。ただ、現時点では、APIがとっているメタン排出量削減行動や貿易、輸送分野での連邦、州レベルの対応に関するロビー活動は評価できるとして、離脱の構えはとっていない。
企業の権益を守るための業界団体が、時代の変化についていけず、従来路線を頑なに主張する一方で、時代の変化への対応を投資家から常に求められる企業経営者のスタンスが時にズレることは、石油産業や欧米企業だけでの出来事でもない。わが国の業界団体と個別企業の関係でも、同様の「ズレ」が起きている可能性もある。
Research Institute for Environmental Finance