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電気自動車の「『CO2排出量』ディーゼル車より多い」。ドイツの研究所がテスラで検証。バッテリーのレアメタル採掘、充電電力中の石炭火力割合等で、11~28%増と試算(RIEF)

2019-05-08 08:44:33

CO2排出量が「意外に」多い、テスラModel3
  電気自動車は、ディーゼル車よりも多くのCO2を排出する、という調査がドイツで公表された。電気自動車の代表格である米テスラをモデルとして推計した。心臓部の蓄電設備に使われるリチウムやコバルトなどのレアメタルの開発・製造に膨大な電力が必要なほか、充電の電力も「エネルギーミックス」で化石燃料電力が混じる。総CO2排出量はディーゼル車より11%~28%多いという。

 (写真は、研究チームが調査に使ったテスラのModel3)

 ミュンヘン大学にあるIfo InstituteのBuchal, Christoph、 Hans-Dieter Karl 、 Hans-Werner Sinn らの研究者が共同論文で指摘した。

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 電気自動車の心臓部に使われる蓄電池(バッテリー)は現在、リチウムイオンバッテリーが主流。同バッテリーにはリチウムのほか、コバルト、ニッケル、グラファイトなど数種類のレアメタルが使われている。また電気配線をまとめるワイヤーハーネスや駆動モーターには銅が必要。これらのレアメタルや銅などの採掘、精錬、製品化には、膨大な電力を必要とする。

 論文はさらに、走行のために充電される電力にもCO2が含まれる点も指摘する。ドイツの電力は、日本と同様に、石炭火力を含むエネルギーミックスの電力であるためだ。これら電気自動車の製造から販売・走行までの全体のCO2排出量を推計すると、最新のディーゼル自動車よりもCO2排出量は多くなるという。

 

 研究チームは、電気自動車の代表格である米テスラのModel 3を対象とし、バッテリーの寿命を10年、走行距離を年間1万5000kmと想定して、レアメタルの採掘・精錬・製造全体で生じるCO2排出量を推計した。その結果は総CO2排出量は11㌧~15㌧。1km当たり73~98gの排出量となった。

ifo Instituteの本部
Ifo Instituteの本部

 

 充電電力の製造時に排出されるCO2量も無視できない。ドイツの充電ステーション等で供給する電力には、石炭火力発電の電力も再エネ電力も、原子力電力も混ざっている。このため発電割合に応じたCO2排出量を差し引く必要がある。


 これらのCO2要因をすべて考慮すると、テスラ Model 3のCO2排出量は1km当たり156~180gに増大する。このレベルは、ドイツのメルセデス社が製造するディーゼル車のCO2排出量を上回るとしている。


 今回の推計を踏まえ、研究チームは、EUが2030年までに自動車からのCO2排出量を1km当たり59gに制限する規制を導入しようとしていることについて、「技術的に非現実的」と批判している。59gの排出量はディーゼル車だと100km当たり2.2㍑、ガス燃料車だと同2.6㍑となる。

 

 研究チームは、現在の技術で、もっともCO2排出量の少ない自動車は、メタンを燃料とした「メタン・エンジン車」だと推奨している。メタン車の場合、CO2排出量はディーゼル車の3分の1で済むという。


 研究チームは、ドイツ車の本場であるミュンヘン大学に属しており、ディーゼル車を軸に開発してきたドイツの自動車メーカーの思いが、論文にも幾分反映しているとの見方もできる。ただ、製品としての「電気自動車」の本体だけを注目するのではなく、充電電力やレアメタル等の「CO2要因」を含めた試算は意味があるといえる。

 

 電気自動車推進派は、今回指摘された充電電力を再エネ電力に切り替えるほか、バッテリーに活用するレアメタルの採掘・精錬・製造時の省エネ化を進めることが求められる。

http://www.cesifo-group.de/DocDL/sd-2019-08-sinn-karl-buchal-motoren-2019-04-25.pdf