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国連環境計画(UNEP)、カーボンオフセット政策の扱いで「混乱」。サイトの記事を一夜で修正。誰に忖度したのか(RIEF)

2019-06-13 17:30:11

UNEP1キャプチャ

 

  国連環境計画(UNEP)がカーボンオフセット政策の扱いで「混乱」を露呈した。今週初めにウェブサイトに記載したカーボンオフセット政策の限界を指摘する記事を、翌日には一転して修正、批判をトーンダウンさせたからだ。国際航空便のCO2削減対策でオフセット政策の導入を認めるUNEPだが、クレジットを「免罪符」のように扱っているとの当初の記事を一夜で修正したのは、誰かに忖度してのことなのか、話題になっている。

 

 英Climate Home Newによると、UNEPは10日に「Carbon offsets are not our get-out-of-jail free card (カーボンオフセットは免罪符ではない)」と題した記事を掲載した。筆者はUNEPの気候変動サブプログラム・コーディネーターのNiklas Hagelberg氏。

 

 10日に公開された記事では「カーボンオフセットの時代は、終了に近づいている。クリーン意識でクレジットを買いながら、CO2排出量の多い飛行機に乗ったり、ディーゼル車を買ったり、自宅で化石燃料電力を目いっぱい使ったりすることは、もはや受け入れられない(The era of carbon offsets is drawing to a close. Buying carbon credits in exchange for a clean conscience while you carry on flying, buying diesel cars and powering your home with fossil fuels is no longer acceptable or widely accepted.)」と指摘していた。https://web.archive.org/web/20190610044930/https://www.unenvironment.org/news-and-stories/story/carbon-offsets-are-not-our-get-out-jail-free-card

 

 UNEPはこれまで、気候変動対策のひとつとしてオフセットクレジットの売買に基づいてカーボン・ニュートラルを達成できると主張してきた。京都議定書が認めたクリーン開発メカニズム(CDM)や共同イニシアティブ(JI)などは、他国で実施したCO2削減事業からのクレジットを買って、自らの削減量に足し合わせる制度だ。

 

 しかし、Hagelberg氏の記事は、こうした政策対応を根本的に否定する提言となっている。そこで、Climate Home NewsがHagelberg氏に問い合わせたところ、同氏は、記事の編集プロセスで「矛盾するメッセージ」が元の原稿に付け加えられた」とUNEPの編集作業を批判したうえで、「これは論文ではなく、あくまでもウェブ上の記事。UNEPはオフセット政策を(否定するのではなく)仲介的手段として位置づけている」と説明したという。

 

 翌日に掲載された修正版では「「カーボンオフセットの時代は、終了に近づいている」との冒頭の表現は削除されていた。そのうえで「クリーン意識でクレジットを買いながら、CO2排出量の多い飛行機に乗ったり、ディーゼル車を買ったり、自宅で化石燃料電力を目いっぱい使ったりすることは、気候変動を意識する人々にとってチャレンジングなものになっている(Buying carbon credits in exchange for a clean conscience while you carry on flying, buying diesel cars and powering your homes with fossil fuels is being challenged by people concerned about climate change)」とトーンダウンされていた。https://www.unenvironment.org/news-and-stories/story/carbon-offsets-are-not-our-get-out-jail-free-card

 

 Hagelberg氏の説明が本当ならば、UNEPの内部でオフセット批判の論調が付け加えられたことになる。UNEPのスポークスパーソンは今回の修正について、Climate Home Newからの問い合わせにコメントをしていないという。

 

 実はUNEPは、昨年8月にもカーボンオフセットを賞賛する(Keep calm and offset)と題したビデオをサイトに掲載、環境NGOらから批判を浴びた。オフセットクレジットを買っておけば、従来と変わらない豪華な生活を楽しみながら、気候変動対策にも貢献できますよ、というメッセージだった。これに多くのNGOなどが反発、ビデオは現在、閲覧できない状況になっている。

 

国際航空会社への「忖度」か?
国際航空会社への「忖度」か?

 

 オフセットクレジットへの風当たりが強まっているのは、国際航空便の排出規制でクレジット依存が鮮明になっているためだ。国際民間航空機関(ICAO)の合意で、各国の国際線航空機は、飛行中に排出する温室効果がス排出量を2020年の水準にとどめ、それ以降の排出量については①新技術の導入②運航方式の改善③代替燃料の活用、それにクレジット購入で、カーボン・ニュートラルにすることを予定している。

 

 これらの対策のうち、もっとも効果が期待されているのがクレジット購入。しかし、昨年来、「飛行機からの膨大なCO2排出量をそのままにして、太陽光発電等のクレジットを航空会社や航空機利用者等に与えるのは『免罪符』に相当する」との批判が高まっている。

 

 理論的には、オフセットクレジットの購入は、その前提として排出量全体を削減する総量規制があれば、合理的なシステムと評価される。森林機能等を維持することでシンク能力を高め、その能力をカーボンクレジットとして売買することで、カーボンに価格がつく。途上国での再エネ事業の場合も同じだ。これらのクレジットを総量の枠内で売買することで、全体の排出削減を効率的に実施できる。

 

 しかし、現時点ではパリ協定はあっても、地球全体の総量目標の設定や総量規制は行われていない。オフセットクレジットの「いいとこどり」が横行するリスクがあるのは確かだ。

https://www.climatechangenews.com/2019/06/11/un-environment-official-attacks-agencys-carbon-offsetting-policy/