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TCFDコンソーシアム、「グリーン投資ガイダンス」を公表。TCFD提言の4分野に沿った開示評価の視点を整理。企業の開示への「配慮」を投資家に求める内容(RIEF)

2019-10-09 00:49:29

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 産業・金融業界が官民連携で結成した「TCFDコンソーシアム」は8日、TCFDが示す気候変動関連の財務情報開示の提言を踏まえ、企業の気候関連情報を読み解く際の視点を示す「グリーン投資ガイダンス」をまとめた。TCFD提言が示すガバナンス、戦略とビジネスモデル、リスクと機会、成果と重要な成果指標(KPI)の4分野の評価ポイントを列記している。

 

 ガイダンスは正式には「グリーン投資の促進に向けた気候関連情報活用ガイダンス」の名称。ガイダンスの基本的な考え方として、①企業価値向上につながる建設的な対話(エンゲージメント)の促進②気候変動に関するリスクと機会の把握及び評価③脱炭素化に向けたイノベーションの促進と適切な資金循環の仕組みの構築、の3点を示し、それらが「環境と成長の好循環」を目指すことにつながる、としている。https://rief-jp.org/new/92629

 

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 各論では、TCFD提言が示した4つの推奨開示分野で示される気候関連財務情報を読み解く「視点」を整理する形にしている。まず、「ガバナンス」では、企業の気候変動対応に取り組む組織体制の確認に加え、それが実質的に機能し、実効性を有しているかを確認する、としている。

 

 具体的には、①対象企業の取締役会等の組織体制とその機能、気候変動対応のガバナンスに対する取締役会の監視の実効性②取締役会による直接的な監視と同等の実効性が担保されているか③ガバナンス関連の組織体制や経営者の具体的役割、審議内容が経営に反映されるプロセス、を示している。

 

 「戦略とビジネスモデル」では、TCFD提言の軸となるシナリオ分析について「シナリオのデータや分析結果の正確性よりも、戦略に至った意思決定プロセスとシナリオとの整合性、業種に照らした妥当性及び策定された戦略に沿った対応を確認、評価する」としている。

 

 またシナリオ分析の扱いでは、「どのシナリオを用いたかよりも、そのシナリオを適切に用いて、説得性、妥当性のある分析結果、すなわち『ストーリー』になっているか、これらのストーリーに対して企業が必要な対応策をとっているか」を評価するとしている。

 

 「リスクと機会」では、企業のリスク対応の取り組みを理解し、気候変動対応を通じた機会獲得の可能性も積極的に評価し、リスクと機会のバランスをとった企業評価を行う、としている。

 

 具体的には、①気候関連リスクである移行リスクと物理的リスクの二種類を指摘②「機会」として、資源の効率的利用や低排出型エネルギー源の採用、新たな製品やサービスの開発等を指摘。さらにCO2の再生利用や革新技術を活用する機会として、経産省が力を入れるCCUS/カーボンリサイクルや水素・燃料電池等を例示している。

 

 また、企業が気候変動対策として取り組むイノベーションと企業の長期戦略の関係性や企業内の体制等を評価対象にあげ、①企業の長期戦略やその背景の事業環境認識とイノベーションの取り組みの整合性②イノベーションを生み出す企業のマネジメント・システム、経営者のコミットメント、組織設計、プロセス、組織文化等を評価対象としている。

 

 「成果と重要な成果指標(KPI)」では、企業が管理・開示するKPIの設定根拠の評価のほか、戦略との整合性の確認を求めている。具体的には①KPIの比較評価の際に業種特性を考慮②KPIの水準だけでなく推移(改善度合い)の確認等を求めている。

 

 KPIでは、事業のバリューチェーン全体を通じたGHG排出量に加え、③製品やサービスの利用時の削減貢献量を考慮した評価を行う④業種によりGHG排出構造や低減に必要な取り組みが異なるため、それらの評価は業種ごとにするよう求めている。

 

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 総じて、ガイダンスは、気候関連財務情報を開示する企業の特性への配慮を投資家側に求める内容となっている。日本の企業と金融機関の長年の「配慮」の関係をベースに踏まえているようにも読める。

 

 しかし、企業も金融機関もグローバル対応がすでに当然となっている。その中で、気候関連財務情報の開示とその評価が、日本型対応で完結するものではないのは自明である。産業界と金融界が鳴り物入りで立ち上げた「コンソーシアム」の成果物が、グローバル市場の視点とどれだけ整合性を持つのかが、ポイントだろう。

 

 特にシナリオ分析の扱いでは、「どのシナリオを用いたかよりも、『ストーリー』になっているかが大事」とした指摘には、「目が点になる」思いだ。グローバル企業の気候リスクのシナリオ分析においては、その比較可能性が求められ、シナリオの標準化がカギになる。「どのシナリオを用いるか」は極めて重要な選択になる。

 

 TCFDが求めるのはあくまでも「気候リスク」の財務に及ぼす(つまり企業価値に及ぼす)影響を金融的に把握する手順である。企業が将来の「ストーリー」を語るのは自由ではある。だが、気候リスクは他の金融的リスクと同様に、収益を損なわないマネジメントが可能な範囲に留められるという説明と、信憑性を求められる。

 

 その説明手段の一つがシナリオ分析である。そうしたシナリオの妥当性と比較考慮の適切性があって初めて、気候リスクマネジメントは成り立つ可能性が出てくる。「シナリオよりもストーリー」という開示姿勢で、うなづく投資家がどれほどいるだろうか。

 

 TCFD提言を求めた金融安定理事会(FSB)の当時の議長だったマーク・カーニー英イングランド銀行総裁は、8日に東京で開いたTCFDサミットにも出席した。同氏が常に強調するのは、TCFD提言による情報開示の義務化であり、気候関連情報の財務情報化であることを忘れてはならない。

                                           (藤井良広)

https://tcfd-consortium.jp/pdf/news/19100801/green_investment_guidance-j.pdf

https://tcfd-consortium.jp/pdf/news/19100801/overview_green_investment_guidance-j.pdf