HOME |CO2削減目標の「サイエンス・ベースド・ターゲッツ(SBT)」、15日から目標基準を厳格化。「2℃未満」から、「1.5℃未満」「2℃より十分に低い」に切り替え。日本企業52社が目標引き上げ迫られる(RIEF) |

CO2削減目標の「サイエンス・ベースド・ターゲッツ(SBT)」、15日から目標基準を厳格化。「2℃未満」から、「1.5℃未満」「2℃より十分に低い」に切り替え。日本企業52社が目標引き上げ迫られる(RIEF)

2019-10-15 20:30:08

SBT2キャプチャ

 

  企業のCO2排出削減目標の基準となっている「サイエンス・ベースド・ターゲッツ(Science Based Targets : SBT)」の基準が15日から厳格化された。従来は、産業革命前からの気温上昇を2℃未満に抑える「パリ協定」の目標だけが基準とされてきたが、今後は昨年10月に、IPCCが特別報告で示した「1.5℃未満」目標を導入し、「2℃よりも十分低い」、「2℃未満」を新たな目標とする。

 

  SBTは公的な目標ではない。国連のグローバルコンパクト、環境NGOのWWF、CDP、世界資源研究所(WRI)の4機関が共同で、温暖化対策に取り組む先進的企業の目標設定を支援する形で打ち出された。投資家等は企業が定める目標がSBTに準拠しているかどうかを、企業の温暖化対策の確からしさを測る手法の一つとして扱っているところが多い。

 

 2015年のパリ協定は、途上国を含めて、世界中の国が温暖化対策に取り組むことで合意することを最優先とした。このため、目標とする「2℃未満」への抑制が温暖化の加速を抑えるに十分かどうかという疑問が残っていた。

 

 SBT1キャプチャ

 

 昨年10月に公表されたIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の特別報告書は、こうした疑問への回答となった。すなわち、パリ協定によって各国が約束した国別削減公約(NDCs)を足し合わせても、2℃に抑えることはできず、すでに人為的な活動による世界全体の平均気温の上昇は2017年時点で約1.0℃になっており、現在のまま温暖化が進行すれば、2030〜52年の間に1.5°Cに達する可能性が高い。

 

 確信度が中程度の予測では、1.5℃上昇の場合と2℃上昇の場合では、いくつかの地域で強い降水現象(豪雨)の発生確率に違いがみられ、いくつかの地域では干ばつと降水不足の発生確率の増加がみられる。2100年までの海面上昇は1.5℃の場合は、2℃の場合よりも約0.1m低くなる、などの予測を示した。

 

  こうしたことから、日本での今回の台風15号や19号の被害のように、すでに起きている気候変動の激化を踏まえると、1.5℃目標を目指すことが望ましいとの判断が広がっている。SBTはすでに今年2月の時点で目標基準の見直しを決定していた。

 

 SBTの方針は、①SBTとして評価される目標設定は、「1.5℃未満」「2℃より十分に低い」のどちらかと整合するものだけ。従来の「2℃未満」はもはや認められない②既存の目標および、新目標設定の企業の宣言はSBTのウェブサイトで公開し、従来目標を含めた3区分に分類する③各企業は自らの目標を最新の気候科学に基づいて、5年ごとに検証し、2025年以降はその検証作業を義務化するーーというものだ。

 

 現在、SBTの目標評価を受けている企業は、15日から新規目標への切り替えの申請ができるとともに、見直し規定の義務化が始まる2025年までには、現行目標のアップデートを迫られることになる。新基準に切り替えない場合、SBT上で「旧基準企業」としてランク付けされ、新基準切り替え企業との対応力の差が市場で歴然と示されることになる。

 

 単に目標を切り替えるだけでは済まない。NGOなどの試算では、CO2排出量の削減ベースは2.0℃未満だと、平均的に年間1.23%減のペースで対応できるが、1.5℃未満だと年4.2℃減と削減ピッチを3.4倍も高めなければならない。その分、企業の削減コストは高まる。

 

 現時点でSBTの認定を受けている企業は世界全体で278社ある。国別で最も多いのは米国の55社。日本はそれに次ぐ2位で52社。日立製作所、パナソニック、富士通、リコー、ソニー、三菱地所、小野薬品工業、日立建機、YKK AP、ダイキン工業、花王、ユニチャーム、大日本印刷、電通、KDDI、キリンビールなどが名を連ねている。金融機関でも東京海上ホールディングス、損保ホールディングス、MS&ADグループの3損保が認定されている。

https://sciencebasedtargets.org/about-the-science-based-targets-initiative/

https://sciencebasedtargets.org/2019/02/20/science-based-targets-initiative-announces-major-updates-following-ipcc-special-report-on-1-5c/