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黒田日銀総裁、気候関連リスクの金融安定に及ぼす影響について、初めて言及。「資産価格の下落、担保価値の毀損等の可能性」を認める。金融規制・監督面では「政策との連携の可能性」を指摘(RIEF)

2019-11-29 14:06:53

kurodaキャプチャ

 

 黒田東彦日銀総裁は27日、都内で開いた会合で、金融安定の新たな論点として気候関連リスクに言及した。この中で、「自然災害の影響が、資産価格の下落や担保価値の毀損につながる可能性、(災害に)関連するリスクが金融機関の大きな課題になる可能性がある」と述べ、気候リスクが金融安定に及ぼす影響の可能性を認めた。そのうえで、金融規制・監督面からの対応が求められる場合は、「産業政策や環境規制・ガイドライン等のリスク対応を踏まえ、産業セクターと金融セクターの間での連携の余地があるかもしれない」と指摘した。

 

 パリ・ユーロプラスが主催した「フィナンシャル・フォーラム」で語った。日銀総裁が気候変動と金融安定の関係について公式に言及したのは初めて。

 

 総裁は、気候関連リスクについて、「金融安定に関する新たな論点の一例」として位置づけ、10月の台風19号の被害など、厳しい自然災害が増大している、と指摘した。その原因については「因果関係をはっきりさせることは容易ではないが、原因として、地球温暖化を指摘する人もいる」とし、間接的な表現ながら、温暖化による自然災害増問題に増えた。

 

 そのうえで、こうした自然災害増の影響が、人命に加えて、「資産価格の下落や担保価値の毀損につながる可能性、関連するリスクが金融機関に大きな課題となる可能性もある」として、金融機関および金融システムに与える影響の可能性を認めた。

 

  総裁は、気候関連リスクには、他のリスクとの違いとして、他の金融上のリスクに比べて長い期間に亘って効果が持続する長期的な影響がある、その影響がとても予見しにくい、という点を指摘した。これらのリスクの違いを評価する、しっかりとした調査や分析が必要とした。

 

 また、金融安定のための規制や監督上の対応が求められる場合は、国際金融規制・監督の設計の基本サイクルの①フォワードルッキングな視点で制度を設計②着実に実行③効果と副作用を評価④必要ならばどんな問題にも対処する、という4段階の作業を、気候関連リスクについても実行するべき、とした。

 

 そのうえで、気候関連リスクの規制や監督を検討する際は、産業政策や環境規制・ガイドラインが、こうしたリスクへの対応としてどの程度効果的か、念頭に置いておく必要がある、と付け加え、「産業セクターと金融セクターの間で連携する余地があるかもしれない」とした。この点は、石炭火力発電所や石炭鉱山などの企業の保有資産が、気候リスクの影響で減損して「座礁資産(Stranded Assets)」化する可能性の問題に、産業政策がどう取り組むのかという点を政府に求める形だ。

 

 さらに、総裁は気候関連リスクが提起する課題として、「セクター横断的で、時系列的な論点」をあげた。セクター横断的な問題としては、炭素排出が幅広い産業に影響を及ぼすことであり、時系列的問題は、炭素排出の影響が長期間にわたる問題だ。

 

 この点で、総裁は、「わたしたちは、『大きすぎて潰せない』問題への対応等で、専門的な知見を生かしてきた」「こうした金融規制・監督に関する議論の蓄積は、今後、金融安定のための新たな課題として環境リスクに対処していく際に、貴重な示唆を提供してくれる」などと語った。

 

 総裁の「専門的な知見」や「議論の蓄積」発言は、バブル崩壊後の不良債権問題の処理で、日本の金融界建て直しのために、日銀・政府が実施した金融機関への公的資金の導入や、超低金利政策等を指すとみられる。気候関連リスクが経済全体、および金融システムに大きな影響を及ぼす場合は、こうした「異次元」の政策を果断なく実施するとの決意と読める。

 

 日銀はこのほど、気候関連リスクと金融政策、金融監督政策の諸課題を議論するために、各国の中央銀行や金融監督当局が組織している「Network for Greening the Financial System、NGFS)」に参加した。http://rief-jp.org/ct8/96503

 

http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2019/ko191128b.htm/