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年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)、保有株の「株式レンディング(貸株)」停止。スチュワードシップ責任との整合性を優先。当面、外国株に限定。他の機関投資家も対応求められそう(RIEF)

2019-12-04 15:43:06

GPIF2キャプチャ

 

 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は3日、スチュワードシップ責任を果たすため、保有株の株式レンディング(貸株)を停止すると発表した。貸株をすると所有権が借り手に移転し、GPIFが投資先と「建設的な対話(エンゲージメント)」をすることが困難になる可能性があるため、としている。今回の対象は外国株に限定するが、今後日本株に拡大する可能性もある。他の生保・年金も同じような事情を抱えており、スチュワードシップ責任の取り方が議論を呼びそうだ。

 

  GPIFは現在、株式の証券貸付運用を行っている。その際、貸株に伴い所有権は借り手に移転する。そうなると、GPIFFの株保有に実質的な空白状態が生じる。また現在の貸株のスキームでは、貸し出した株式の「最終的な借り手」や「用途」が確認できず、透明性が確保されていない課題もある、と指摘している。

 

 GPIFではこれまで、経営委員会でこの問題を複数回にわたって議論を重ねてきたとしている。その結果、こうした事態は、機関投資家として担っているスチュワードシップ責任との整合性を欠く、との懸念を払拭できないことから、貸株を停止することを決めたと説明している。ただ、今後、透明性の確保が図られ、課題が改善されると考えられる場合には、貸株スキームを改めて検討するとしている。

 

 貸株は、株券(株式)を貸したり、借りたりする取引。長期保有の金融機関(生保、信託銀行、年金等)が、株式を借り入れたい機関(外資系証券会社やヘッジファンドなど)に貸し出すことで、株式市場の流動性を確保する手段の一つになっている。

 

 同スキームによって、貸し手は一定の金利を受け取り、一方の借り手は市場で株券の売却取引が可能になる。また、取引期間中の株券の名義は借り手に移るため、借り手は期間中の配当金を得るほか、議決権行使などもできる。わが国での市場規模は3兆5000億~5兆円との試算がある。

 

 市場関係者は、今回のGPIFの貸株停止方針が外国株に限定していることから、当面の国内株式市場での取引に与える影響はないとの見方が多い。また外国株の場合でも、GPIFの外国株式資産は2019年6月末で42兆4606億円。日本を除くMSCIIワールド指数の時価総額に対して1%程度でしかなく、影響はあまりないとしている。

 

 GPIFが外国株の貸株で得る収益は18年度までの3年間累計で約376億円。ここから、企業から配当を得る権利日をまたぐ株式に上乗せした分を差し引いた貸付料を、今後は失うことになる。しかしGPIFは企業価値の向上が株価の上昇や配当の増加につながり、今回の措置でスチュワードシップ責任を果たせると判断したとされる。

 

 GPIFが貸株停止の対象を、将来、日本株に拡大するかどうかは現時点では不明。ただ、貸株とスチュワードシップ責任のあり方の論点は、外国株も日本株も同様。特に、日本株市場ではGPIFの影響が大きいので、その分、スチュワードシップ責任も大きいといえる。GPIFは今回の発表で「債券については、(株式)レンディングの停止を検討していない」と明記したが、「国内株」についてはどちらとも言及していない。

 

 また、長期保有のスチュワードシップ責任の担い手である一方で、貸し株市場の貸し手であるというGPIFの二面性は、他の年金、生保等の機関投資家も同様だ。今回、GPIFが貸株停止に踏み切った措置に対して、他の機関投資家がどのような対応をとり、どのようなESG運用、スチュワードシップ責任を果たしていくのかという説明責任を、今後、求められることは間違いない。

https://www.gpif.go.jp/