HOME4.市場・運用 |ハーバード大学の320億ドルの寄付基金を責任投資化へ(Responsible-Investor) |

ハーバード大学の320億ドルの寄付基金を責任投資化へ(Responsible-Investor)

2012-04-25 20:17:12

HarvardUniverstiy
ハーバード大学の寄付基金は、全米で最大級の資産規模を誇り、運用成績もトップクラスである。2011年は21.4%の成長率で320億ドルとなり、2008年以前の水準へ戻した。2012年第一四半期は米国株式の運用成績が14%上昇し、S&P500とDJIA(ダウ工業株30種平均)をわずかに上回った。

こうした側面で評価すれば、本校の寄付基金に対する格付けは「A」となるだろう。しかし、the Green Report Card 2011[1]で、本校の持続可能性に向けた取り組みの評価を見てみると、「A」評価を受けている項目が多いなか、寄付基金の透明性についての評価は「C」となっており、悪い意味で際立っている。大学側は、「我々は、ベンチャー企業を含めて、環境や持続可能性に配慮した企業に対するプライベートエクイティや天然資源投資に寄付基金の一部を配分している。」と主張している。

 

ハーバード大学は、資産運用にあたって、社会環境問題に配慮した指標に沿った投資をしているかもしれないし、していないかもしれない。本校の学生として、大学がどのように資金を運用しているのか、気になるところであるが、投資活動の詳細を知るための情報が不足している。一方で、同様に寄付基金を運用している他大学では、主な投資先を学内に公開する動きが出始めている。ハーバード大学側は、資産運用方法を開示すべきという要求を拒否し続けている。

学内組織の意見を取り入れるための仕組みも不十分である。現在、本校は、議決権行使の方針を決定する委員会(the Corporation

Committee on Shareholder Responsibility)と、助言を行う委員会(the Advisory Committee on Shareholder Responsibility)を設置しており、4人の学生が後者の委員会に参加しているが、12人で構成される委員会においては、きわめて少数である。寄付基金は、学内の研究活動や設備にも充当されるものであり、学生として、我々は、大学がどのように資金を運用しているのか、配慮する責任と権利がある。

 

社会的に意義ある教育と研究を行うことを旨とするハーバード大学の理念と、運用組織(the Harvard Management Company)の投資戦略にかかわる考え方の間には、本質的な隔たりがある。投資にあたって社会環境への影響を十分に考慮しない寄付基金の運用は、大学が掲げるミッションに対する説明責任を果たさない。さらには、受託者責任にも反するものであるといえる。運用にあたってESGへの配慮を欠くことは、大学側が重大なリスクと機会を見逃すことにつながる。この危険性は、新興国への投資比率が高まるに従い、より深刻になる。

 

我々は、ハーバード大学の投資戦略に整合性と説明責任を求める活動を行っている学内のネットワーク組織「Responsible Investment at Harvard」を代表し、意見を述べている。我々の活動は、本校で学んできた教えに沿うものである。それは、我々は「知識を発展させ、理解を深め、そして社会に奉仕するために、自らの行動がもたらす結果に責任を負う」ことに懸命にならなければならないということである。我々は、大学側に対して、資産運用にかかわる委員会の改革を行うとともに、議決権行使の枠を超え、あらゆる運用資産に対してESGを適用することを求めたい。具体的には、新たなファンド(social choice fund)の創設や、運用組織内へのESGチームの設置、土地の収奪や貧困労働者、人権侵害にかかわる投資を行わないことなどである。

 

いま、機関投資家のなかでESGの統合が強力に進められており、歴史的な転換期にある。ハーバード大学にとっては、責任投資の分野でリーダーになれるチャンスである。「Responsible Investment at Harvard」のほか、責任投資を推進するための他大学とのさまざまなネットワークを立ち上げてきたことは、ハーバード大学が責任投資の先駆者となれる可能性を示している。さらに、本校の寄付基金は、他大学の規模を圧倒しており、その存在は特別なものであり、責任も重い。また、本校はこれまで、私立大学における財務支援の拡大など、アメリカの高等教育においてさまざまな変革を主導してきた。

 

ハーバード大学は、投資の透明性を高め、ESGの統合を精力的に取り組むことによって、今後の責任投資における基準構築に一役買うべきである。(翻訳はグッドバンカー社)








[1] マサチューセッツ州ケンブリッジに拠点を置くNPO団体「Sustainable Endowment Institute」によって行われた調査で、米国とカナダの大学の、キャンパス内および寄付基金の持続可能な取り組みを評価するもの。

http://www.responsible-investor.com/home/article/harvards_endowment/