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第5回サステナブルファイナンス大賞受賞企業インタビュー⑤グリーンボンド賞は明電舎。中間財メーカーとして初のグリーンボンド発行。CBI認証も民間初(RIEF)

2020-02-18 11:25:58

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  第5回サステナブルファイナンス大賞のグリーンボンド賞には、電気機器メーカーの明電舎(東京)が選ばれました。中間財メーカーとして、国際的に厳格な基準のClimate Bonds Initiative(CBI)認証付きのグリーンボンドを発行しました。日本の民間企業のCBI認証取得は初めてで、グリーンボンドの質の向上に貢献した点を評価されました。同社の経理・財務グループ財務部長の石川律也氏と、同部資金課主任の佐々木智香氏に聞きました。

 

――まず、グリーンボンドを発行しようとなった経緯を教えてください。

 

 石川氏:最初は2018年7月に、電気自動車用のモーターとインバーターの生産製造設備を増設するために70億円の投資を発表しました。その段階でその70億円の資金調達をどうやるかという課題を持っていました。それまでは明電舎の資金調達は、借り入れによる間接金融が中心でした。社債による調達は、2017年に実質的な初回債を一度、出していますが、債券発行の経験はあまりなかったのです。そこで、借り入れか社債かの選択がありました。

 

 そのころ、明電舎として環境への取り組みを明確にするため、「第一次明電舎環境ビジョン」を発表しました。2030年までに事業活動に伴う温室効果ガス排出量の30%削減(2017年度比)を目指すものです。こうした環境への取り組みを社会にアピールしていくタイミングでもありました。ちょうど、日本の債券市場でグリーンボンド発行も増えてきた時期です。証券会社や金融機関からの情報を得る中で、電気自動車(EV)用部品の増産にかかる設備用資金の調達が、グリーンボンドの資金使途にうまく合致するのではないか、という思いで2018年夏から検討を始めました。本格的な準備に入ったのが、18年の年末ぐらいからです。

 

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石川律也氏

 

――証券会社等の外部からの働きかけが強かったのですか。

 

 石川氏:実は、いろいろ検討する中で、経営トップが海外でのIR活動に出席していた際に、グリーンボンド等の話題が出たとのことで、われわれの関連部門に、その話を下ろしてきたということもありました。

 

 佐々木氏:証券会社等からお話をいただいたのと、社内でそうした話が出てきて検討を開始していたのは、ほぼ同時期でした。

 

 石川氏:2019年3月末に、三井住友銀行を中心として、ESGに絡めたシンジケートローンの借り入れを行いました。その際、日本総合研究所からESGの第三者評価も得ていたので、ESGへの取り組みや非財務情報に関する外部公表の重要性についてあらためて認識しました。それらもあって、内部での検討の結果、このEV用設備投資資金についてはグリーンボンドで調達しようという話に至りました。三井住友銀行には社債の財務代理人に入って頂きました。

 

――グリーンボンド発行に際して、より厳格なCBI認証をとることになった背景は?

 

 佐々木氏:グリーンボンドの発行のための情報を集める中で、今回の資金使途である中間財に関する環境改善効果をどう評価するかという点が課題となりました。それまで、日本では中間財を資金使途にしたグリーンボンドの事例はありませんでしたし、環境改善効果が無いグリーンボンドは「グリーンウォッシュ」と判断される可能性もあります。最終製品である完成車の環境性能でしたらわかり易いですが、自動車の部品であるモーターやインバーターという中間財の環境改善効果をどう評価するのか、また発行しても市場から本当にグリーンと評価されるのかがわからないと思案していた際、証券会社や評価会社から「CBI認証」の手法を聞きました。

 

 CBIは再生エネルギーや低炭素陸上輸送等のカテゴリーごとに技術基準を設定しています。たとえば、自動車の場合は、EV、ハイブリッド、水素自動車等と、車種に分けて適格・不適格・要検証か、を示しています。完成車本体が適格であれば、搭載する部品についても適格であると明確に定義しています。この手法を用いて適格であると立証することにより、抱いていた疑念を払拭できると考えました。

 

佐々木智香氏
佐々木智香氏

 

 

 そこで当社の生産計画とCBIの技術基準を照らし合わせると、当社製品を納入予定の車両のうちプラグインハイブリッドとハイブリッド車は要検証の必要がありました。そのため、日本の各省庁が出している数値を元にして、車両本体がCBIの規定する数値基準を満たしていることを証明する作業を主に第三者機関のDNV GLに検証していただいたのです。グリーンボンドの国際市場基準である国際資本市場協会(ICMA)のグリーンボンド原則(GBP)や環境省のガイドラインへの適合の検証作業は、日本格付研究所(JCR)にお願いするという形で、進めました。DNVとJCRは業務提携されているので、評価・検証作業は実質的に一度の負担で2社の評価を得られるメリットもありました。

 

――CBIの認証はコストもかかったのではないですか。

 

 佐々木氏:CBIの技術基準に適合するかという作業は追加で発生しましたが、必要なデータは日本の各省庁の公表数値と、生産計画ベースでの予定数値を元に作成できましたので、実際の基準適合の証明作業は数枚のレポートで済みました。CBIとの直接のコンタクトも、認証の申請は必要ですが、検証報告時はほぼDNVに間に入っていただいています。費用面も特段大きく増えたということはありません。

 

 石川氏:DNVの検証費用は環境省の補助金の対象になりました。CBIの認証は補助の対象外ですが、金額的には10億円に対して1万円程度の料金設定なので、われわれは60億円の発行額でしたから、6万円で済みました。それで、CBI認証のロゴマークの使用許可を得られました。国際的に認知度が高いCBI認証を取得することで、我々の債券のグリーン性を担保でき、中間財に対する環境改善効果の考え方を日本のグリーンボンド市場に広げられたので、作業や費用負担に比べて、得られた価値は非常に大きいと感じています。

 

――発行時の投資家の反応はどうでしたか。

 

 石川氏:元々、当社は社債市場で2回目の発行でしたので、まず市場で名前が売れていません。発行前にDebt IRとして社債の投資家を回りました。ただ、初回債の時とは違って、「グリーンボンドだから」ということで話を聞いてみたいという投資家が多く、前回より多くの投資家を訪問しました。実際の発行では、発行額に対して4倍以上の応募倍率となりました。初回債の時の応募倍率は約2倍でしたので驚きました。

 

――手応えがかなりあったと。

 

 石川氏:中央の投資家と地方の投資家の割合も、前回と異なり、今回は中央の投資家の割合がぐっと増えました。投資表明も22社にしてもらいました。明らかに前回とは違う結果になりました。

 

―――利回りもよかったと。

 

 佐々木氏:我々の中で想定していたよりもよかったですね。前回とは、発行環境が違うので単純比較はできませんが、金利水準は非常に満足いく結果になりました。

 

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――成功したということですね。

 

 佐々木氏:本当にそうです。社内ではそうした評価です。いい働きをしてくれたと経営層からも評価してもらいました。グリーンボンドの発行で、われわれの会社が社債市場だけでなく、一般の方にも知られるようになり、イメージ付けもできたと思っています。

 

――今後はどうしていきますか、ファイナンス面では、間接金融と債券を両方ファイナンス手段としていくのですか。

 

 佐々木氏:そうですね。当社はEV用部品も作っていますが、創業123年を迎える電気機器メーカーで、元来社会インフラ系の事業を行っています。ですので、公共性の高い鉄道や電気、上下水道などのソーシャル性の高い事業と絡めて、サステナビリティボンドのようなものも検討していきたいと思っています。

 

――個人向けのグリーンボンドの発行をする企業も少しずつ増えています。

 

 石川氏:正直、個人向けはまだ検討したことがありません。個人投資家の認知度も一般の会社より低いというか。われわれは、BtoBの会社ですので、そこはちょっとまだ早いかと感じています。今回、事業に根差した取り組みでのグリーンボンド発行を、サステナブルファイナンス大賞のグリーンボンド賞として評価していただいたことを、非常にうれしく思っています。

 

――ぜひ、他のBtoBの企業のモデルになってもらいたいと思っています。

 

                             (聞き手 藤井良広)