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総合7商社の人権体制。人権方針の策定等は一定の進展。サプライヤー対策等で課題。個社別では双日が一歩、リード.・人権団体「ヒューマンライツ・ナウ」が調査(RIEF)

2020-02-18 21:42:48

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  国際人権団体の「ヒューマンライツ・ナウ」は、総合商社7社を対象とした人権調査結果を公表した。それによると、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づく人権方針の策定等では一定の進展がみられたものの、「サプライヤー監査を含む実効性のある人権デュー・ディリジェンスの仕組みが不十分な商社が圧倒的に多く、改善の余地が極めて大きい」と結論づけた。各社別では、双日が9項目中最も多い4項目で「合格」評価を得た。

 

 調査対象となったのは、 総合商社7社(三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅、双日、豊田通商)。2019年夏に各社にアンケートを実施し、全ての企業から回答を得た。

 

 

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 ヒューマンライツ・ナウが商社への人権ヒアリングを実施したのは、グローバルサプライチェーンにおける人権課題の解決を考える場合、衣服、食品、 木材、鉱物資源、エネルギーなど、国境を越えて多種多様な多くの商材を世界中から調達する総合商社が果たすべき役割は極めて大きい、との判断による。

 

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 2011年の「国連指導原則」に基づき、人権方針を制定しているのは住友商事を除く6社。住友商事はグローバルコンパクトには署名しているが、社内の人権方針は定めていなかった。ただ、国際人権基準と国の基準が矛盾した場合の対応を明記しているのは、双日、丸紅、伊藤忠の3社だけだった。

 

 7 社全てが、海外事業で課題となる取引先のサプライヤーに対する行動指針(コード・オブ・コンダクト)とを通じて、人権尊重を求めていた。ヒューマンライツはこの点を評価する一方で、行動指針等の共有だけでは実際の人権リスクの予防・軽減の点では十分とは言えないと指摘している。その点を確認する定期的なサプライヤー監査は三井物産、三菱商事、伊藤忠の3社のみ。その監査も、実際に商材全てを対象としているのか、原産国の末端まで遡った監査をしているかは回答ではわからない、と疑問を示している。

 

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 ただ、サプライヤー監査を実施していない残りの4社のうち、双日は木材調達に関して、WWF ジャパン監修による「林産物調達 チェックリスト」を用いた木材の伐採地までのトレーサビリティや、伐採地での森林管理の適切性の確認などを行っている、と回答した。このNGOとの連携について、ヒューマンライツ・ナウは「監査のあり方として評価できる」とした。

 

 サプライチェーンに関する人権デュー・ディリジェンスについては、住友商事は未実施、丸紅は体制構築中で、「実施」と回答したのは双日だけ。残りの4社は「一部実施」だった。この一部実施回答のうち、伊藤忠は「一定額以上の取引 があり、かつ高リスク国の企業を対象」として「8%」と明示したが、三井物産は「新規事業投資案件のうち、環境・社会への影響が大きい案件を対象」と限定しており、三菱商事は詳細が明確でない、とされた。

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 サプライヤーの把握では、双日は木材については三次以降のサプライヤーまで、住友商事は三次サプライヤーまで、伊藤忠は一部の二次サプライヤーまで把握していると回答した。双日の、その他の商材、および三井物産と三菱商事は、一次サプライヤーまで、丸紅は体制構築中、豊田 通商は無回答。

 

 技術実習生雇用については、三井物産と住友商事が、サプライヤーを含むビジネスパートナーに「ある」と回答した。他の5社は回答時点では「把握していない」との回答だった。

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 ダイバーシティ対応では、各社ともダイバーシティを方針としては掲げるものの、実際の役員管理職の女性比率は極めて低い。 三菱商事、双日は女性執行役員0%。伊藤忠は4.5%、豊田通商2.9%。他の2社は執行役員比率自体を明記しなかった。

 

 人権保障のための救済システム(グリーバンス)の構築状況では、6社がシステムを構築していると回答。丸紅だけが「現在構築中」とした。このうち、双日は、英語など24言語に対応、豊田通商も9言語対応で、2社は「アクセシビリティの向上という観 点から評価できる」とされた。ただ、サプライヤーを含むビジネスパートナーが利用できる救済システムの整備は、伊藤忠と双日だけだった。

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 ヒューマンライツ・ナウは、アンケートの9項目の回答状況に応じて、商社ごとに色分けで示している。「緑」が、ある程度、指導原則に沿った対応、「黄」が、改善の余地があるものの一定の評価ができる、「赤」は、早急な取組みが求められるもの。もっとも「緑」が多かったのは、双日で、9項目中4つ。次いで伊藤忠が3項目。丸紅が2項目と続く。他の4商社は1項目だけ。

 

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 ヒューマンライツ・ナウはアンケート調査を踏まえ、各総合商社に対し、 取り組みをさらに推し進めるとともに、人権問題について国際的水準に則った対応を行うよう、次の点を要請している。

 

 ①指導原則に沿った人権方針を策定すること。

 ②人権方針をサプライヤーやビジネスパートナーに対話によって共有し、その実施に共に取り組むこと。

 ③人権リスクの特定・予防・軽減のための人権デュー・ディリジェンスに速やかに着手し、そのプロセス、進捗状況と課題、特定した人権リスクを公開 し、説明責任を果たすこと。

 ④サプライヤーを原材料調達まで把握し、サプライヤーリストを公開するこ と。

 ⑤全商材のサプライチェーン全般を通して、独立かつ実効性のある定期的な監査を実施し、その結果を公開すること。

 ⑥サプライチェーン上に技能実習生が関与しているかを速やかに調査し、その 調査結果を公表し、人権侵害を予防・軽減・救済する仕組みを構築するこ と。

 ⑦役員のジェンダー構成を抜本的に改善させるとともに、差別、ハラスメン ト、強制労働、児童労働、人身取引といった人権リスクを特定し、予防・軽 減・救済するための仕組みを構築し、同時に生活賃金の実現に取り組むこ と。

 ⑧ステークホルダーとの継続的なダイアログを実施すること。

 ⑨サプライチェーン上のステークホルダーがアクセス可能な救済制度を構築すること。

 

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