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経産省の「容量市場オークション」、市場価格を5割上回る約定価格。既存電力有利、再エネ新電力はコスト負担増。非効率石炭火力発電を温存へ。経産省の制度設計能力の乏しさ露呈(RIEF)

2020-09-18 16:48:48

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 経済産業省が推進する容量市場オークションがこのほど行われたが、同制度の「欠陥」が早くも露呈した。入札での約定価格が市場価格を5割も上回り、新電力等の小売電力会社に大きな負担を強いるほか、既存の石炭火力発電所の大半を温存させる形になるという。先に経産省が打ち出した非効率石炭火力廃止方針とも整合性がとれないなど、同省の制度設計能力の乏しさへの批判が相次いでいる。

 

 このほど、容量市場とは、将来の電力供給力(電源)を事前に確保するため、既存の発電設備に対して、あらかじめ対価を支払う仕組み。7月に、4年後(2024年)の電源分を対象とした第一回の入札を実施、入札を担当した電力広域的運営推進機関(OCCTO)が結果を発表した。

 

 それによると、約定した総容量は1億6769万kWで、目標調達量の約94%を確保した。ただ、入札の約定価格は、あらかじめ設定した上限価格(1kW当たり1万4138円)とほぼ同額(1万4137円)となり、供給力の新設などに必要とされる9425円(指標価格)を大幅に上回った。経過措置を踏まえた約定総額は1兆5,987億円とされた。

 

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  環境NGOの気候ネットワーク(KIKO)は、容量市場について5つの問題点を指摘している。①設備費用が回収された古い石炭や原発に巨費が流れる②気候変動対策・脱石炭の流れに逆行する③再エネの普及拡大を阻害する④再エネ新電力には極めて不利になる⑤開示情報が極めて限定的で不透明――である。

 

 ①は、今回の公表では12,698万kWの“安定電源”がゼロ円で入札した。いずれも大手電力事業者などの旧一般電気事業者。地域独占時代に総括原価方式で、すでに設備投資は、電力消費者の負担で建設しているが、これらの電源も上限価格で改めて対価を得ることになる。つまり、電力会社は「二重取り」になる。

 

 KIKOの試算では、100万kWの石炭火力は、設備容量80%を見込んで年間113億円となり、2010年以前に建設された電源に対する1年目の経過措置(控除率42%)を踏まえても66億円が支払われるという。経過措置の控除率は年々低くなるので、長く電源を維持するほど支払い額は年々増えていく。

 

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 ②については、今回、応札した石炭火力は4126万kWにのぼった。設備利用率70~80%を前提とすると非効率石炭火力を含む大部分の既存石炭火力が対象になると見込まれる。パリ協定の「1.5 ℃目標」達成には、先進国は2030年までに石炭火力全廃が求められるが、日本の容量市場制度は、こうした国際潮流とは完全に逆行する。

 

 さらに、経済産業省は今年7月、「非効率石炭火力のフェードアウト」の制度を具体化する方針を打ち出した。だが、今回の容量市場の約定結果は非効率石炭火力を維持することにもなり、経産省自身の政策と矛盾することになる。

 

 ③が指摘する点は、約定結果では水力を除く再エネ電源がわずか0.2%でしかなかった点だ。KIKOは「容量市場とは、既存の火力、原発、水力に下駄を履かせ、今後の拡大普及を目指すべき太陽光や風力など再エネの普及を確実に妨げる制度」と指摘している。それにも関わらず費用は全ての小売電気事業者、送配電事業者が容量拠出金として支払う仕組みになっている。

 

 これらの料金は電力料金に転嫁され、原発や石炭火力の電気を購入したくないとして、新電力に切り替えている消費者も、容量市場制度によって原発や石炭火力の維持費を負担しなければならない形になる。

 

 また④で指摘するのは、既存の電力会社が有利に、再エネ新電力は極めて不利になる、という仕組みだ。既存電力会社(旧一般電気事業者)は小売部門が容量拠出金を負担したとしても、容量市場で応札した電源がありホールディングス内で、収支は相殺される。

 

 これに対して、発電事業を持たない新電力は卸電力市場で電力を調達している。今回の入札による約定総額から計算されるkWh当りの負担額は約1.9円となる。この分が電力小売り事業者のコストに上乗せされる。再エネ事業者にとっては過剰な負担となり、かつ、既存電力との競争上、不公正となる。KIKOは「新電力の生き残りは壊滅的な状況になると予想され、特に再エネ新電力への影響は、今後の再エネ普及の妨げになる」と強い懸念を示している。

 

 ⑤は、こうした問題が山積するにもかかわらず、容量市場取引の情報開示が不十分で、公正な取引につながっていない点だ。今回の入札に、どの電源が応札したのか、電力会社ごとに受け取る費用がいくらかなどの情報はすべて非公開とされている。電力の公共性を理由として、制度設計したはずの容量市場システムだが、その情報が一般に開示されないのでは、容量市場自体の存在意義が問われる。

 

 KIKOは「これだけの問題をはらむ容量市場は白紙撤回し、原発や石炭から脱却し再エネへのシフトを目指し、電力市場を含むエネルギーシステムについて国民的議論を通じ抜本的に見直すべきだ」と指摘している。

https://www.kikonet.org/info/press-release/2020-09-16/Capacity_Market2020

https://www.occto.or.jp/market-board/market/oshirase/2020/20200914_youryouyakujokekka_kouhyou.html

https://www.occto.or.jp/market-board/market/oshirase/2020/files/200914_mainauction_youryouyakujokekka_kouhyou_jitsujukyu2024.pdf