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経産省、2050年ネットゼロに向けた電源構成の「目安」を提示。再エネは5~6割にとどめ、原発と化石燃料温存を3~4割。現状のEUの先行国の水準に、30年後にやっと届くレベル(RIEF)

2020-12-22 16:31:26

coalキャプチャ

 

 各紙の報道によると、経済産業省は21日、2050年時点の電源構成に占める原発と化石燃料火力発電の合計比率を3~4割とし、再生可能エネルギー発電は約5~6割にとどめる案を示した。来年に予定するエネルギー基本計画を議論する「土台」との位置づけだ。原発と火力発電の内訳の比率は示していない。「原発・化石燃料維持」に拘る姿勢がチラつく。

 

 (写真は、石炭火力発電所:イメージです)

 

 同日開催した総合資源エネルギー調査会基本政策分科会(分科会長・白石隆熊本県立大理事長)に事務局案として示した。報道では、経産省は今回の案を「目標ではなく、議論を深めるための一つ目安」と説明。決定ではないことを強調して委員の了承を得たという。

 

 その一方で、この目安をどういう積み上げで設定したのか、さらには現状の電源構成から「目安」達成まで、どのような道筋を想定して算定したのか、目安で想定される各電源のCO2削減への寄与度や必要費用の経済分析等の基本データは示していない。

 

 同分科会は、2050年のネットゼロ目標を踏まえて、中間目標となる2030年の目標を決め、エネルギー基本計画に反映させることを使命とするという。ならば、そうした将来推計の根拠、どのデータを使ったのかといった基本の情報を、有識者である同分科会の委員に開示する必要があるはずだ。

 

 EUでは、「2050年ネットゼロ」の実現可能性を確保するため、「2030年目標」をめぐって、実現可能性を精査するデータのやり取りの上に、激しい政治的攻防を繰り広げた。その結果、着地点として55%削減(90年比)を設定した。EUでは現在、この55%削減を実現するための電源構成を含めた政策の見直しに入っており、来年半ばには公表される見通しだ。

 

 今回の経産省の「目安」について、一部のメディアには「欧州などの再生エネ先進地と比べても遜色ない水準になる」と評価するところもある。だが、これは読者をミスリードする情報だ。https://r.nikkei.com/article/DGKKZO67550330R21C20A2EE8000?type=my#AAAUAgAAMA

 

 EUではすでに現時点で、再エネ7割越えの国が3か国ある。これは現行の30年目標(90年比40%削減)に基づく対応で、今後、30年目標を55%削減に強化することから、各国は電源構成の再エネシフトをさらに強めるのは確実だ。一方の「経産省の目安」は、30年後の2050 年でも最大6割目標でしかない。これで本当にネットゼロを実現できるのか。こうした不明瞭な「目安」は、欧州に比べて「大いに遜色あり」と言わざるを得ない。

 

 経産省はなぜ、こうした「苦し紛れの目安」を提示したのか、という疑問が生じる。一つの推測は、ネットゼロの目標達成よりも、原発再稼働を促進し、石炭火力を含む化石燃料発電を温存することを優先にしている可能性がある。

 

 現行の第5次エネルギー基本計画では、2030年時点の再エネ目標は22~24%、原発20~22%、そのほかは、化石燃料等54~58%となる。これを今回の目安の「3~4割」と比較すると、原発を30年かけて15~20%台に、石炭火力を同じく15~20%台に縮小することになる。現在、6%しか稼働していない原発を倍以上に引き上げ、石炭等の化石燃料は、3分の1程度に縮減する計算だ。

 

 「原発か石炭か」の選択肢は明瞭だ。電源構成に占める原発の比率は2010年度には25%あったが、約6%に下がったからといって、この間、わが国の生活や経済運営で、電力不足や供給の安定性に問題が起きてはいない。むしろ、既存原発の使用済み廃棄核燃料の中間処理等の問題が各地で起きている。

 

 原発を「CO2フリーの電源」とみなすのは、完成後、事故無く稼働した場合のケースだ。燃料のウラン採掘から、最終処分場(日本ではまだ場所が見当たらない)での処理までのライフサイクルに応じた排出量を評価したうえで議論すべきだ。加えて、東京電力の福島第一原発事故で明らかなように、(発電以外の)他の環境・社会分野への影響も考慮する必要がある。

 

 確かにEUでも、米国でも、原発を活用している。今後、小規模原発の市場拡大も予想されている。しかし、EU内でも、ドイツ、オーストリア等は脱原発であり、EU加盟国のすべてが原発を認めているわけではない。原発稼働のフランス、英国、米国でも脱原発を求める動きは根強い。

 

 石炭火力についても、経産省が率先する超々臨界圧石炭火力発電(USC)は、同規模の天然ガス火力発電よりも約2倍のCO2を排出する。CCUSなどを使ったカーボンリサイクルの絵を描くが、その開発コストを国の補助金でカバーする場合は、再エネの支援策との負担の比較検証が必要だ。

 

 経産省の総合資源エネルギー調査会には、こうした電源構成の変革を「経産省の目安」に拘らず、有識者としての知見と科学的データに基づいて判断してもらいたい。従来のように、役所の都合を追認するのではなく、自らの科学的な分析・推計に基づいて、ゼロベースからネットゼロの道筋にふさわしい電源構成の絵を描いて、国民に示してもらいたい。

https://www.meti.go.jp/press/index.html