HOME10.電力・エネルギー |20日就任のバイデン米大統領、パリ協定復帰に加えて、米・カナダを結ぶ「キーストンXLパイプライン」建設計画取り消しを決定へ。温暖化促進を阻止、カナダの事業者らの反発必至(RIEF) |

20日就任のバイデン米大統領、パリ協定復帰に加えて、米・カナダを結ぶ「キーストンXLパイプライン」建設計画取り消しを決定へ。温暖化促進を阻止、カナダの事業者らの反発必至(RIEF)

2021-01-19 22:04:28

2Key002キャプチャ

 

  バイデン次期米大統領は20日に就任するが、パリ協定への復帰とともに、米国で環境課題となってきたカナダから米メキシコ湾まで原油を運ぶ「キーストンXLパイプライン」計画の建設許可を取り消す方針が明らかになった。同パイプラインはカナダ・アルバータ州の「オイルサンド」等の重質原油を、米国の石油精製能力の5割以上が集中するメキシコ湾岸地域の製油所群まで輸送する計画で、トランプ政権が建設承認を出していた。

 

 (写真は、敷設工事用に山積みされているパイプラインの鋼管、BBCサイトから)

 

 米メディアが報じた。就任当日の20日にも同パイプライン計画の建設許可を撤回する大統領令に署名する見通しだ。同計画は、リーマンショック後の米経済不況の2008年ころに計画された。事業主はカナダのトランスカナダ社。カナダから米中西部を縦断してメキシコ湾まで原油を運ぶという壮大な計画だが、途中、自然環境や先住民居留地区に影響を与えることから、反対運動が続いていた。

 

 このためオバマ政権は2015年11月に建設許可を却下した。だが、トランプ大統領は2017年3月に建設承認の大統領令に署名して、建設承認に切り替えた。その後、2018年11月に、モンタナ地区連邦地方裁判所が再び建設差し止めを命じる判決を出した。これに対してトランプ大統領は2019年3月に再び大統領令を出して、建設承認を強調するなど、変転が続いてきた。

 

Key001キャプチャ

 

 同パイプラインは総延長1900km、日量83万バレルの原油を、アルバータから国境を超えて米中西部に運び、ネブラスカ州でた既存のパイプラインに接続される。総事業費80億㌦(約8300億円)とされる。建設工事は19年のトランプ大統領令後に着手されたものの、工事はほとんど進捗していないとみられる。

 

 バイデン政権の方針に対して、原油産地であるアルバータ州の州知事のJason Kenney氏は、「許可の取り消しはパイプライン建設が生み出す米カ両国の雇用を無くすだけでなく、両国の重要な関係を弱体化させる」と反発している。原油生産業者らは訴訟を提起する構えを示している。

 

 オイルサンドはタールサンド等とも呼ばれる。極めて粘性の高い鉱物油分を含む砂岩をいう。同砂岩から得られる重質原油は約4兆バレルと通常原油の2倍以上あるとの推計もある。ただ、オイルサンドから1バレルの重質原油を得るためには、数トンの砂岩を採掘して油分を抽出することになり、大量の廃棄土砂が発生する。

 

 また重質油のため、CO2排出量も多い。環境NGOのグリーンピースによると、ライフサイクルベースでみると、オイルサンドからのCO2排出量は通常の原油より約30%多いという。さらに、輸送用のパイプラインからの原油漏えい等による自然環境への影響も考えると、極めて環境負荷の高い化石燃料である。「2050年ネットゼロ」にそぐわない。

 

 ただ、事業者側は、CCS(カーボン回収貯留)等の技術を活用して、温暖化への影響を抑制できるとしている。日本の石炭火力発電擁護論者と同様の論旨の展開だ。