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焦点:なるか脱原発、火力発電の有効利用や省エネ進展で可能に(Reuters)

2012-09-14 21:22:08

政治に簡単な決断はない。決めたからには断じて成功させるのが「決断」だ
[東京 14日 ロイター] 野田政権が打ち出した「脱原発」の方針は、火力発電の有効利用や省エネを進めていけば決して 不可能な政策ではない。ただ、資源に乏しい日本でエネルギー政策を急激に変更するのはリスクが大きい。

政治に簡単な決断はない。決めたからには断じて成功させるのが「決断」だ




再生可能エネルギーが原発に代わる基幹電源に成長するのか見極めるため、「脱原発」という旗を掲げながらも、実現可能性を検証していくことが不可欠だ。脱原発の動きが後戻りできない地点に進む前に、国民の知恵と力を結集する政治のリーダーシップが求められている。

<埋没費用20兆円の呪縛>

脱原発の政府方針に対し電力業界の激しい抵抗は必至だ。過去に投じたコストと時間、労力があまりにも大きいからだ。1基4000億円として単純計算すると全国50基で20兆円に上る。既に支出してしまい、決して戻らない費用や時間、労力のことを経済学で「サンクコスト(埋没費用)」と呼ぶ。「戻らないコストはあきらめるべき」と人や企業に合理的な判断を促すための概念として用いられる。

原発はサンクコストの概念に基づく撤退判断がもっとも困難な事業といえるだろう。原発立地の実態を政府関係者はこう説明する。「立地候補地の準備室に赴任した電力会社の社員が、地元有力者の子供の家庭教師をボランティアで引き受ける。その子が大人になったときに原発建設への協力を働きかける」。数十年の歳月をかけてでも電力会社が原発に執着するのは、順調に運転している限りは「金のなる木」だったから。停止したままでは、計算にもよるが1基当たりで毎日7000万円近いコストがかかる「金食い虫」だ。

深刻な需給危機が予想されたにも関わらず、原発稼働は全国50基中、関西電力(9503.T: 株価, ニュース, レポート)大飯原発3、4号機の2基だけで真夏を乗り切った。三菱総合研究所の小宮山宏理事長(元東京大学総長)は「原発の停止は量的な危機ではなく、電力会社の財政の問題だ。ただ、国民は電力会社を選べないので、これは国全体で考えていかない」と指摘する。原発の稼働が全くないと、火力で代替する燃料費は年間3.1兆円増えると経済産業省は試算する。脱原発を判断するうえで経済への影響を見極め対策を講じる必要も出てくる。

<世界一高い天然ガス輸入価格>

脱原発に踏み切るなら、相当の期間、火力発電に頼らざるを得ないだろう。最重要エネルギーは天然ガスだが、問題は日本の調達価格が世界一高いことだ。足元の価格は百万BTU(英式熱量単位)当たり18ドル台で米国の6倍。ドイツと比べても2倍近くの水準だ。天然ガスの輸入価格が原油価格と連動する方式を続けてきたことが影響している。

ただ、米国発のシェールガス革命によって生産量が飛躍的に増える見通しとなったことは好材料。10年代後半以降に恩恵が波及する可能性が出てきた。中部電力(9502.T: 株価, ニュース, レポート)と大阪ガス(9532.T: 株価, ニュース, レポート)は7月末に天然ガスの液化加工契約を結び、17年から米産シェールガスの輸入開始を狙う。原油価格とは連動せず、中東や東南アジアからの輸入価格に比べ3、4割安くなるとされる。

脱原発を政府が打ち出したことで、原発の新設が封じられた場合、電力業界は天然ガスに比べ二酸化炭素(Co2)排出量が多い代わりに燃料コストが安い石炭火力に傾く可能性もある。脱原発による電力コスト上昇を懸念する経産省は「原発撤退ならCo2の排出抑制は諦めてもらう」(幹部)と、石炭復権を視野に入れている。

<省エネへの期待、再エネへの不安>

政府の試算では、2030年時点の総電力量が現在の1.1兆キロワット時から1割減の1兆キロワット時となる前提だが、小宮山氏は、省エネの前提が低すぎるとみる。「冷蔵庫の電力消費は20年前に比べ8割減、エアコンは6割減っている。今後も技術改善が見込めるから30年時点における家庭の電力消費は3分の1くらいに減る」(小宮山氏)として、30年時点の総電力量は8000億キロワット時だと主張する。

総電力量が8000億キロワット時の場合、原発比率15%の発電量1500億キロワット時を含めないことも可能だ。小宮山氏は「30年で何を目指すといえば、原子力はゼロだ」と語った。その場合は再エネの発電量比率を10年時点の10%から30年時点で30%に引き上げないといけない。

10年時点の再エネ全体の発電量率1060億キロワット時に対し大半は水力発電(809億キロワット時)による。原発ゼロの場合、太陽光の発電量は30年までに10年比17倍に、風力は15倍に引き上げる必要がある。「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング(9983.T: 株価, ニュース, レポート)の柳井正会長兼社長は、ロイターのインタビューで「太陽光や風力などに頼るほど日本経済の規模は小さくない」と話した。再生可能エネルギーへの懐疑論は有識者や経済界に根強い。

<新しい経済モデルとは>

現在の日本は世界最速ペースで少子高齢化が進み、2060年にはいまの人口が3割減少すると予想されている。若者はクルマに興味を失い、ユニクロや「無印良品」に代表されるシンプルライフを楽しむ。橋本努・北海道大学大学院経済研究科教授はロイターの取材で「成長戦略は必要だ。もっと自分に可能性があると思わせてくれそのるような方向に消費が動いていく。環境駆動型や寄与経済といった資本主義の別の駆動因を見つけないといけない」と語った。キーワードは「環境」と「貢献」だ

原発に象徴される「大規模集中電源」から供給を受けるだけでなく、太陽光発電やコージェネレーション(熱電併給)に投資して、「分散型エネルギーシステム」に個人が主体的に参加するという、政府の新しいエネルギー戦略が目指す姿と符号する。分散システムを長期に持続的に作り上げれば、一部の場所に障害が生じて被害が全体に波及しない強靭さを備えるようになる。橋本氏は「地域や仲間同士でどうエネルギーを利用していくか、あるいは投資していくといったことに可能性を見い出すべき」と強調した。

(ロイターニュース、浜田健太郎 取材協力 白木真紀 編集 橋本浩)

 

http://jp.reuters.com/article/jpnewEnv/idJPTYE88D07C20120914?pageNumber=1&virtualBrandChannel=0