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「環境首都は徳島だ」 徳島県が2030年に電力の自給率37%へ、水素エネ普及にも力。東京に対抗 (スマートジャパン)

2016-01-10 11:51:15

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 徳島県は再生可能エネルギーで地方創生に取り組む新戦略を打ち出した。「環境首都」を掲げて東京都に対抗する意気込みのもと、太陽光を中心に風力・小水力・バイオマスの導入量を拡大させる計画だ。電力の自給率を2030年度までに37%へ引き上げ、水素エネルギーの普及にも力を入れる。[石田雅也,スマートジャパン]

 

 

 「自然エネルギー立県とくしま推進戦略」がスタートしたのは、東日本大震災から1年後の2012年3月のことだ。地域の資源を活用して再生可能エネルギーの地産地消を進めることにより、災害に強い街づくりに加えて、新たな産業で地方創生を図る狙いがある。それから3年以上が経ち、「次期・自然エネルギー立県とくしま推進戦略」の策定作業が最終段階に入っている。

 

 

 次期の戦略では「環境首都」を目指す方針を前面に押し出して、「VS東京」を旗印に掲げる。これまで設定していなかった導入量の目標値も設定する。県内の電力消費量に占める再生可能エネルギーの比率(自給率)を2020年度に25%、2030年度には37%まで引き上げて、東京都の目標値を大幅に上回る計画だ(図1)。

 

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図1 電力自給率の目標。出典:徳島県県民環境部

 

 再生可能エネルギーの中でも徳島県は太陽光発電に適している。都道府県庁がある都市の年間日射量を比較すると、徳島市は全国で7番目に多く、東京23区と比べて8%以上、全国平均より10%以上も多い(図2)。それだけ太陽光発電の効率が高くなり、年間の発電量を増やすことができる。

 

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図2 都道府県庁がある都市の年間日射量(1995~2014年の平均)。出典:徳島県県民環境部

 

 実際に再生可能エネルギーの導入状況を見ると、太陽光発電による電力の供給量が2013年度から2014年度にかけて大きく伸びている。2013年度には徳島県内で消費する電力のうち太陽光の占める割合は1.4%だったが、2014年度には一気に5.1%まで増えた(図3)。これに伴って再生可能エネルギーによる電力の自給率は22%に上昇した。国が掲げる2030年のエネルギーミックス(電源構成)の目標値に早くも達している。

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図3 徳島県の電力需要に対する再生可能エネルギーの割合(画像をクリックすると拡大)。出典:徳島県県民環境部

 

 2014年度に運転を開始した太陽光発電設備の中では、東部の小松島市で2015年2月に稼働したメガソーラーが発電能力21MW(メガワット)で最大だ。沿岸部に広がる日本製紙の工場の跡地25万平方メートルに建設したもので、年間の発電量は2500万kWh(キロワット時)を想定している(図4)。

 

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図4 小松島市のメガソーラーの全景(左)と太陽光パネル(右)。出典:日本製紙、三菱商事

 

 一般家庭の電力使用量(年間3600kWh)に換算すると約7000世帯分に相当する。小松島市の総世帯数(1万7000世帯)の4割をカバーすることができる。発電した電力は固定価格買取制度で四国電力に売電して、年間に10億円の売電収入を得られる見込みだ。発電設備の効率を表す設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は13.6%になり、国内標準の13%を上回る。

 

風況の良い山岳地帯に風力発電所

 

 徳島県の再生可能エネルギーは大規模な水力発電所を除くと、太陽光発電の導入量が圧倒的に多い(図5)。今後も太陽光が最も大きく伸びるものの、同時に風力・小水力・バイオマスを増やしてバランスのとれた電源構成を目指す方針だ。さらに各種の再生可能エネルギーと水素を組み合わせて、新しい産業を生み出す計画も進んでいる。

 

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図5 固定価格買取制度の認定設備(2014年12月末時点)

 

 徳島県内には風況に恵まれた地域が広く分布している。東側の沿岸部は風力発電の条件になる年間平均風速5.5メートル/秒を上回る(図6)。内陸の山岳地帯には8メートル/秒を超える場所もあり、新しい風力発電所の建設計画が進行中だ。

 

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図6 徳島県の年間平均風速(画像をクリックすると拡大して広域を表示)。出典:徳島県県民環境部

 

 中部の上勝町(かみかつちょう)を中心に3つの町と村にまたがる山の稜線に沿って、発電能力が39MWにのぼる風力発電所の建設が環境影響評価の最終段階にある。手続きが完了すれば建設工事に入って、2020年までには運転開始が見込まれる。

 

 一帯は年間の平均風速が6メートル/秒を超える風況の良い地域で、設備利用率は風力発電の標準値20%を上回る。年間の発電量は一般家庭の2万世帯分を超える見通しだ。立地する3つの町と村の総世帯数(3800世帯)に対して6倍近い規模の電力供給量になる。

 

 建設計画を進めているユーラスエナジーグループは同じ地域の高原で2009年から、四国電力グループと共同で「大川原(おおかわら)ウインドファーム」を運転してきた。15基の風車で19.5MWの発電能力がある(図7)。

 

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図7 「大川原ウインドファーム」の風車。左手前に見える施設は天体観測ドームを備えた村営施設。出典:四電エンジニアリング

 

 年間の発電量は4100万kWhにのぼり、1万1400世帯分に相当する。設備利用率は24%になる。計画中の風力発電所が同程度の設備利用率を発揮できれば、2つの風力発電所だけで徳島県内の電力需要の2%程度をまかなえる。

 

水素でも東京に対抗、11カ所にステーション

 

 山間部を中心に徳島県の農山村では長年にわたって過疎が進んでいる。過疎地域に指定されている町や村の人口は1960年から2010年までの50年間に半分以下に減ってしまった。風力発電所が立地する3つの町・村も過疎地域に含まれている。過疎地域の集落を再生させるプロジェクトが2012年から始まり、再生可能エネルギーを導入して地域の活性化を促進しているところだ。

 

 当面の対象は太陽光と小水力の2種類である。小水力発電では2014年に稼働した「夏子(なつご)ダム小水力発電所」が最初の事例になる(図8)。夏子ダムは県北部にある農業用水を供給するためのダムである。ダムからの放流水を利用して29kW(キロワット)の電力を供給することができる。

 

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図8 「夏子ダム」の全景(左)と小水力発電設備(右)。出典:徳島県地方創生局

 

 夏子ダムの事例をもとに、県内の過疎地域に小水力発電を展開していく。それと並行して、自治体と地元の民間企業や大学・高専が加わって小水力発電機を開発中だ。小水力発電は水量や落差に応じて最適な発電機を導入することが安定した収益を確保するうえで重要になる。複数のタイプの小水力発電機を開発して実証を続けながら、新事業の創出と電力の供給を両立させる狙いがある。

 

 バイオマスでも新しいプロジェクトが始まった。繊維を中心に環境事業に取り組むクラボウが、東部の阿南市の沿岸部にある工場の遊休地に木質バイオマス発電所を建設する計画だ(図9)。自社製のバイオマスボイラーを導入して、地域で発生する間伐材を燃料に利用する。

 

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図9 クラボウ徳島工場の全景(左)、導入予定のバイオマスボイラー(右)。出典:クラボウ

 

 発電能力は6.2MWである。2016年1月から試運転に入り、4月から売電を開始する予定になっている。年間の売電量は4000万kWhを見込んでいて、一般家庭で1万1000世帯分に相当する。売電収入は1年間に12億円を超える想定で、地域の林業の活性化にもつながる期待は大きい。

 

 徳島県の戦略は再生可能エネルギーだけにとどまらず、水素エネルギーにも広がっていく。2030年までに県内11カ所に水素ステーションを展開して、燃料電池自動車や燃料電池バスを普及させる(図10)。特に関西地域と結ぶ高速バスに燃料電池タイプを投入する計画で、2030年までに合計20台まで増やすことが目標だ。

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図10 徳島県の水素エネルギー普及ロードマップ(画像をクリックすると拡大して全体を表示)。出典:徳島県県民環境部

 県が率先してエネルギーの地産地消を推進するために、太陽光発電の電力で水素を製造する設備を2015年度内に県庁に導入する。加えて県内の工場から副生物として発生する水素を有効活用できるように、水素の精製設備の建設に補助金を交付する予定だ。

 

 2030年には電力の自給率が高まるだけではなくて、燃料電池車に供給する水素の製造量も増える。国が推進する水素社会の構築をにらみながら、東京に対抗する「環境首都」の取り組みは続いていく。

 

http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1512/22/news026.html