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「環境貴族」か「モーレツ国際公務員」か。国連環境計画(UNEP)事務局長の頻繁な海外出張が明るみに。「週末出張」も重ね、航空機からのCO2排出量にも"無頓着"(RIEF)

2018-09-24 22:10:05

solheim4キャプチャ

 

 国連環境計画(UNEP)事務局長のエリック・ソルヘイム(Erik Solheim)氏が、窮地に陥っている。2016年5月に就任した同氏は、UNEPのオフィスの席を温めることなく連日のように世界中を飛び回り、2年弱の間に、48万8518㌦(約5422万円)を飛行機代に費やしたことが内部監査案の流出で明らかになった。果たして、「環境貴族」なのか、「モーレツ国際公務員」なのか。

 

 (写真は、「航空機に乗ったからと言ってCO2排出に罪悪感を感じる必要はない」と言い切るソルヘイム氏)

 

 英紙ガーディアンによると、流出したUNEPの内部監査案は、同氏が就任後の668日間のうち、約8割に相当する529日を海外出張したことを指摘している。UNEPの本部はケニアのナイロビ。この間、本部にいたのは、5日に1日程度だったことになる。ただ、国連の環境部門のトップだから、海外をまたにかけて活動するのは当然、との見方もある。

 

 しかし、これらの海外公式出張のうち、週末に、パリや自国ノルウェーのオスロに飛び、その週末のうちにナイロビに戻る「海外出張」が76日分あるという。週末に米国からパリへ向かうフライトも含まれる。これは何なのか。

 

インドを訪問したソルヘイム氏。インドの環境親善大使のDia Mirzaさんと、タージマハルを視察。
インドを訪問したソルヘイム氏。インドの環境親善大使のDia Mirzaさんと、タージマハルを視察。

 

 UNEPの監査案は、監査での指摘内容に対する当該職員の反論を踏まえた後、最終案として公表される手順。この「週末出張」への監査チームの質問に対して、ソルヘイム氏は「私を、7時から午後4時まで働く労働者と同じように扱うべきではない。馬鹿げだ質問だ」と感情的な反論をしたとされる。

 

 一方で、同氏は一部の「海外出張」分については、費用を返済したことをガーディアンの取材に述べている。ということは、「私的な旅行」が含まれていたことを認めたことになる。具体的にいくら返済したのか、「週末出張」が私的旅行だったのか、といった詳細な点については明確にしていない。

 

 監査チームは、UNEP代表の異例なほど頻繁な航空機利用は、「気候変動対策でCO2排出量削減を進めるUNEPの役割に反する」と批判している。

 

 実際、温室効果ガス排出量の計算では、海外出張などについても、民間企業の場合は「スコープ3」として企業活動に伴う排出量にカウントするところが増えている。しかし、実はUNEPの場合、他の国連機関とは異なり、役職員が自らの活動から生じるCO2排出量を削減するための政策もインセンティブも設けていないという。

 

UNEPナイロビ本部の事務局長室に在籍している時間は少ない
UNEPナイロビ本部の事務局長室に在籍している時間は少ない

 

 それどころか、ソルヘイム氏は8月に母国ノルウェーの航空会社の雑誌のインタビューで、「(CO2を排出する)航空機に乗ることに罪悪感を感じる必要はない。私なんか、ゴールドカード(もっとも利用ポイントの高い乗客向けカード)を3枚も持っているんだから」と自慢げに語ったこともわかった。

 

 同氏に批判の矢が向かうのは、「頻繁過ぎる海外出張」だけが理由ではないようだ。同氏は、ノルウェーの政治家・外交官として、国際外交では、スリランカの平和交渉に取り組んだ経歴がある一方で、国内政治では環境相を務めたこともある。就任前には、国際的視野と環境配慮の両面に目配せができる本物の「環境屋」との期待が、UNEPの職員の間でも高かったという。

 

 ところが、事務局長としての組織運営は、「思い付き型で、かつ専制君主的なマネジメント・スタイルで、すでに多くの点で組織の機能低下等の問題を引き起こしている」(UNEP職員)との内部告発の声があがっている。UNEP自体の問題も露呈した。ソルヘイム氏の出張承認は同氏に直接仕えていたスタッフが担当していた点がその一つ。内部チェックが働かない仕組みだった。

 

 また同氏は部下の二人のシニア・マネジャーを、本部のナイロビではなく、非公式にパリで勤務させるというルール無視の人事も行っていたという。「やりたい放題なのだ」(UNEP職員)。

 

 UNEPの運用面での批判に対しては、同氏は「前例のない環境活動を展開するためには、われわれは、個人としても、社会としても、国連としても(前例にとらわれない)変化が必要なのだ」と述べ、むしろUNEPの組織に官僚的思考がはびこっていると反論している。

 

 ノルウェーの環境NGOのグリーンピースノルウェーの代表、Truls Gulowsen氏は「ソルヘイム氏の問題は当惑以外の何物でもない」と半ば、あきれ返った風でもある。「ソルヘイム氏の言動はUNEPという組織を、従来よりも『見えやすく』したことは、良いことでもある。実際は、国連の環境組織全体の信頼性に非常に悪いイメージを与え、信用低下させることになった」。

 

 多くのUNEPの職員が、匿名を条件に、ガーディアンにソルヘイム批判を漏らしているようだ。同紙が紹介する指摘の一つは、「彼は、まるで自分が企業のCEOのように振る舞う。しかし、実際は国際公務員でみんなに使えなければならない立場なのに」というもの。

 

 どこかの国でも、「みんなのための公務員」ではなく、「自分のため」「誰かへの忖度のため」の公務員に変質してしまっているのに、当該の公務員自身が、バレるまで気づかないという構造が指摘されている。UNEPよ、お前もか、という感じか。

https://www.theguardian.com/environment/2018/sep/21/un-environment-chief-criticised-by-un-over-frequent-flying-eric-solheim

https://www.unenvironment.org/people/erik-solheim