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「未稼働」太陽光発電事業への「強制措置」導入のFIT改革案で、2GW以上の太陽光発電事業が「断念」の公算。損害額2000億円超。国に対する損害賠償訴訟の可能性も(RIEF)

2018-11-26 17:58:38

JPEA1キャプチャ

 

  太陽光発電協会(JPEA)は、太陽光発電の長期未稼働案件の電力の買取り価格を減額変更するなどを盛り込んだ経済産業省の固定価格買取り制度(FIT)改正案に対する緊急アンケート結果を公表した。それによると、制度改正が実施されると、「稼動できない可能性が高い」等の回答が92件(発電容量2.28GW)に上った。金融機関からの融資が止まるなどで事業者の損害額は2000億円を大きく上回る可能性がある。JPEAは、制度改正によって事業者が国を相手に損害賠償訴訟を起こす可能性もあるとして、制度改正案の大幅修正を求めている。

 

 今回のFITの制度改正は経産省が10月15日に公表した。買い取り価格40円、36円、32円/kWhとなっているこれまでの未稼働案件のうち、運転開始期限の付いていないものが対象となる。それらに対して、新たに運転開始期限を設定したり、「系統連系工事の着工申し込み」の受領時期によって買い取り価格を変更(減額)できるようにしようという内容だ。

 

 JPEAのアンケートには29社が回答した。そのうち、今回の改正で影響を受ける可能性のある開発案件は、113件(総容量3.1GW)であることがわかった。開発規模は平均27.5MWで、いずれも特別高圧送電線に連系するメガソーラー(大規模太陽光発電所)となる。

 

 JPEA2キャプチャ

 アンケートではこれらの案件に関し、今後の稼働可能性を聞いた。その結果、制度改正が無い場合は「稼働できる可能性が高い」との回答が296万kW(111件)で、「稼働できる可能性が低い」が14万kWとなり、稼働見込み事業が圧倒的に多かった。これに対し、制度改正案が実施された場合、「稼働できない可能性が高い」が228万kW(2.28GW:92件)と増大する。

 改正で影響を受ける可能性があると回答された113件に対しては、現時点ですでに投資総額(電力会社への工事費負担金、地権者やEPCへの支払いなど)が約1680億円投じられている。これらが未稼働となった場合の違約金(EPCや金融機関への違約金、地権者に対する賠償金など)は、約1210億円が追加発生する見込みだ。

 制度改正がなければ、これらの案件のほとんどは稼動見込みだが、改正されると約8割の案件は稼動停止に至るという。そうなると、事業者は国を相手取って2000億円を超える損害賠償訴訟を提起する可能性がある。

 JPEA3キャプチャ

 今回、JPEAがアンケートを実施したのは110社だが、経産省によると、今回の改正案の対象となる案件は、全体で最大1700万kW(17GW)に上るという。JPEAの増川武昭事務局長は、「今回のアンケートで判明した、影響のある案件数・容量(113件、3.1GW)は、氷山の一角である可能性も高い」と指摘している。

 アンケートで判明した稼動遅れの理由は、「電力会社の連系可能日に合わせた」(24件)が最も多い。次いで「林地開発などの許認可」(19件)、「造成、建設工事に時間を要するから」(16件)。太陽光発電事業者の間では、電力会社の連系作業や、自治体の認可手続きに合わせて、事業の進捗を進めてきた事例が少なくなく、事業者のみに責任を問う改正案への不満も多い。

 制度改正によって稼働できなくなると答えた理由については、「買い取り価格が変わるから」が51件、「買い取り期間が短くなるため」が1件、「買い取り価格と期間の両方の影響」が48件という回答。買い取り価格変更(減額)の影響が圧倒的に大きいことがわかる。

 買い取り価格の変更の影響が大きいのは、「造成費・土地代などのコストが高い」(70件)ことが最も多いが、「融資が受けられなくなるから」も63件あった。政府が設定した固定買取り価格を前提に事業計画を立案、金融機関からの借り入れ契約を結ぶ事業モデルが行き詰まるリスクが顕在化することになる。

 JPEAはこうした事業者の声を踏まえ、経産省に対し、7つの制度改正についての修正要望を公表した。

 ①系統連係工事着工の申し込み期限を受領日でなく提出日とする

 ②着工申し込み提出期限を少なくとも2020年3月末までに延期してほしい

 ③連系開始予定日は合意された予定日を基本とし、発電事業者の希望も尊重する

 ④着工申し込み後の事業計画の変更では、やむを得ない事情などの場合は、工事申し込みの再提出を不要にしてほしい

 ⑤プロジェクトがある程度進んでいる場合(例えば、融資契約やEPC契約締結、建設工事の着工など)は、制度変更の対象から外してほしい

 ⑥環境アセスメントのプロセスで時間のかかっている案件は対象から外してほしい

 ⑦運転開始期限については、「連系開始予定日+3カ月」にしてほしい。

 今回の制度変更のパブリックコメントはすでに今月21日に終了している。事業者からは多くのコメントが寄せられた模様だ。経産省は、今後、政省令を改正・告示して正式に決定し、2019年1月下旬ごろまでの「着工申し込み」期限を設定するというスケジュールになる予定。

http://www.jpea.gr.jp/pdf/181121_1.pdf