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米アラスカ州連邦地裁、トランプ大統領令による北極圏等の石油・ガス掘削規制撤廃を「無効」と判断。議会の承認なしに前政権の禁止措置を覆せない、と(RIEF)

2019-03-31 21:49:47

Alaska1キャプチャ

 

 米アラスカ州の連邦地裁は、 トランプ米大統領が北極海での石油掘削規制を撤廃した大統領令について、無効の判断を下した。同大統領令は、オバマ前大統領が北極圏周辺での石油と天然ガス採掘禁止を命じた措置を覆したものだが、環境団体が差し止め訴訟を起こしていた。

 

 (写真は、北極圏等での石油・ガス掘削規制撤廃の大統領令に署名するトランプ大統領=2017年4月)

 

 現大統領令を「却下」する判決を下したのは、アラスカ州地裁のSharon L. Gleason判事。前任者のオバマ前大統領は、2015~16年にかけて、北極圏の約50万㎢と大西洋の一部地域を永久に保護し、石油・ガスの採掘を禁じる大統領令等を発していた。

 

 トランプ大統領は就任後の2017年4月に、前任者のこれらの規制措置を撤廃する大統領令を発令、エネルギー開発優先の姿勢を打ち出した。これに対して、10組の環境保護団体が差し止め措置を求めて争ってきた。

 

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 Gleason判事は、「オバマ大統領の措置は石油・ガス採掘の無期限禁止であり、これを覆すことができるのは議会だけ」と指摘。現大統領令による変更措置は、「大統領の権限を逸脱している」と断じた。この判決に対して、トランプ政権は連邦巡回控訴裁判所に上告するとみられるが、現時点では、ホワイトハウスは判決についてコメントを避けている。

 

 今回の判決は単に、一つの環境訴訟での一審判決というよりも重みがある。オバマ前大統領の措置は、米国の既存法に基づき、かつ無期限の開発規制を命じた点だ。判決が「大統領の権限を逸脱している」と指摘したのも、オバマ大統領令が、1953年成立の「Outer Continental Shelf Lands Act(OCS)」に基づいている点を踏まえている。

 

 また、アイゼンハワー、ニクソン、クリントンなどの米国の歴代の大統領は、共和党、民主党を問わず、政権のレガシー(遺産)として、米国土および海洋の保全を宣言してきた。これらの措置はいずれも10~20年などの有限措置だったが、オバマ前大統領令は期限なしの永久規制として出されている。

 

 トランプ大統領は就任後、前大統領の措置発令の数カ月後に、それらを廃止する大統領令を発したわけだが、連邦保有海域保護を命じた大統領令を覆す大統領令は、歴代の大統領も発したことがない初のケースだったことも、大統領令として「行き過ぎ」との批判があった。

 

 Vermont Law Schoolの環境法専門のPatrick Parenteau教授は「法規則や最高裁も、大統領が前任者の公共の土地や海域、地域の保護を変更したり、減じたりする大統領権限について明確な指摘はしてこなかった。しかし、前任者の環境政策等を変更したいならば、なぜ変更するのかという明確な理由が必要だ。単に『エネルギー重視』というだけでは十分ではないし、『選挙で勝ったから』という理由も十分ではない」と指摘している。

  そのうえで、Parenteau教授は、訴訟は最高裁まで持ち込まれ、最終決定までに数年かかると予測している。 その間、海洋掘削は事実上、停止されることになる。

 今回の判決の影響は、昨年、内務省が北極圏の連邦海域での掘削権限を石油・ガス会社にリースする計画にも、影響が及ぶとみられている。同計画では、米国の全連邦所有の海域沿岸での掘削開発・リースを解禁する方針を立てている。