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ノルウェーの世界最大ソブリンウェルスファンドの運用機関「NBIM」、国連支援の責任投資原則(PRI)の情報開示フレームワーク改定案を「基本原則から逸脱」と批判(RIEF)

2020-03-16 08:20:49

PRI1キャプチャ

 

  世界最大のソブリンウェルスファンドのノルウェー政府年金基金の資金運用を担当するのNorges Bank Investment Management (NBIM)はこのほど、国連支援の責任投資原則(PRI)が報告フレームワークで新たな開示を求める提案をしていることに対して、「PRIの基本原則から逸脱する」と批判する書簡を公開した。

 

 書簡は、最高企業ガバナンス責任者(CCGO)のCarine Smith 氏と、サステナビリティ担当のIhenacho  Wilhelm Mohn氏の連名で公開された。

                     
 資金運用にESG評価を組み込むことを目指す活動を展開しているPRIは、2006年設立の非営利団体。国連機関ではなく、国連の環境基本計画金融イニシアティブ(UNEP FI)とグローバルコンパクトとパートナーシップを結んでいる。6つの基本原則に賛同する年金基金や資産運用機関等が自主的に署名する形をとっている。

 

PRIは6原則で構成されている
PRIは6原則で構成されている

 

 その6原則は、①私たち(署名した年金等の機関投資家と投資運用機関等)は、投資分析と意思決定のプロセスにESG課題を組み込む②活動的な資金の所有者となり、所有方針と所有習慣にESG問題を組み入れる③投資対象の企業に対してESG課題についての適正な開示を求めるーーなど。このうち今回、論点となっている報告については、6番目で「本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告する」と定めている。

 

 PRI事務局は、これらの原則を踏まえながら、「Reporting Framework Review Consultation Phase II」として、 報告フレームワークの改定案を署名機関に提示、意見を求めている。同改定案は、現行の報告内容が「原則に関する活動、進捗状況の開示」と一般的な記述となっているのに対して、「コアとプラス」の開示を新たに求める内容という。

 

 PRIによると、改定案の趣旨は、PRIの署名機関がより活動を活発化することを求め、その活動報告について、現行よりも簡潔かつ首尾一貫した内容を求めるもの、としている。このうち「コア」情報開示とは、PRI事務局以外には開示しないが、活動プロセスに絞ったコアセクションでの継続的な情報開示と評価をする。もう一つの「プラス」情報とは、自発的情報開示で評価を伴わないが、大半が外部公開される活動結果(outcome-focused)ベースの情報開示としている。

 

NBIM2キャプチャ

 

 これまでの署名機関が自らの判断で報告内容を選んで開示するやり方から、PRI事務局が判断する「コア」な情報を内部的に報告するとともに、活動の進捗状況だけでなく、活動結果という「プラス」情報の一般開示を求める形だ。

 

 さらに、署名機関は報告内容の要点を自ら要約した「Transparent Report」を作成・公表することも提案している。同レポートには、もっとも重要な開示情報を盛り込むことを求めている。報告内容についてPRI向けのものは従来通り外部非公表の形でスコアを付すが、スコアの配点は現行の総合点方式から、新たに各分野、アセットクラスごとに変更する提案をしている。

 

 こうした変更を加えて、PRI事務局向け情報開示では、スコアとそれに対する署名機関の対応を組み合わせた内容にすることを求めている。さらに、レポートには署名機関の最高執行責任者クラスの署名・声明を伴うことも求めている。

 

 NBIMは、こうした改定の趣旨については、署名機関が6原則をまじめに順守することを促進し、報告フレームワークの改定によって、署名機関が説明責任を高めることにつながると、評価している。しかし、「コアとプラス」の追加開示のうち、「プラス」については「PRIが求める 投資活動によるReal-world outcomesベースの開示は支持できない」と指摘した。

 

PRI67キャプチャ

 

 さらに「コアとプラス」の追加開示自体についても、「PRIは現行の6原則を反映させた開示を維持すべきで、『コアとプラス』の導入は二重構造をもたらすことになる」と批判した。

 

 NBIMが「コアとプラス」のうちでも「プラス」情報開示に否定的なのは、投資家が企業に及ぼす影響の度合いは、企業の戦略や資産クラス、投資家の投資タイプ等によって異なる点をあげている。投資による「outcomes」への寄与を明確にすることは、理想としては望ましい。だが、そのためには投資効果の「Additionality」が測られねばならないとの立場だ。

 

 また、投資割合の少ないマイノリティの投資家の場合、投資先企業の行動に対しては限界的なインパクト(あるいはゼロか)しか及ぼすことが出来ないのが「Real-world outcomes」だという指摘だ。さらにそうしたインパクトを捉えきれない投資成果の報告を求めること自体、PRIの6原則から逸脱しているとした。

 

 こうした指摘をした上で、NBIMは「PRIの署名機関は、投資活動に際して、ESG要因を自らの投資判断に盛り込むことにコミットした金融機関である。そうした大半の投資家が負う責務は、彼らの受益者(年金受給者や預金者等)のために金融リターンを最大化する点にある。責任投資家は、特定の環境、社会的目的の達成や、政策目標への貢献を義務とするわけではないので、PRIの報告フレームワークの下でそうした潜在的なインパクトを報告するように期待されるべきではない」と述べている。

 

  NBIMは ノルウェー中央銀行の投資運用部門で、世界最大のソブリンウェルスファンドのノルウェー政府年金基金の資金運用を担っている。同ファンドは総資産額10兆ノルウェークローナ(約110兆円)。長期投資家として知られ、PRIの創設署名機関である。

 

https://www.nbim.no/en/publications/consultations/2020/pri-reporting-framework-review–consultation-phase-ii/

https://www.unpri.org/pri/pri-governance/formal-consultations