ESG評価会社のSustainalytics、トランジションボンドのセカンドオピニオン業務を開始。独自の移行タクソノミーで「ブラウン事業」のグリーン化を評価。事業主体の評価も連動（RIEF）
2020-06-04 22:44:20
ESG評価会社のSustainalyticsは、新たにトランジション（移行）ボンドのセカンドオピニオンを業務に加えると明らかにした。トランジションボンドは、グリーンボンドとは異なり、現在、CO2排出量が多い「ブラウンな事業」をグリーンに改良・移行させるための投資資金を調達するものとなる。現在、同ボンドについての明確な基準はなく、国際資本市場協会（ICMA）がワーキンググループで検討しているほか、本サイトを提供する環境金融研究機構（RIEF）も研究者を中心とした研究会を設け、トランジションファイナンスガイダンスの開発を進めている。https://rief-jp.org/ct8/101705
Sustainalyticsは、国連の気候変動政府間パネル（IPCC）や国際エネルギー機関（IEA）等の研究成果を踏まえて、投資家に移行に集中した投資に対して判断に資する情報を提供することを目指すとしている。
トランジションボンドはこれまで、香港の電力会社キャッスル・ピーク・パワー（CAPCO）子会社、イタリアの天然ガス輸送大手のスナム、ブラジルの食品大手マーフリッグ、国際復興開発銀行（EBRD）等が発行した経緯はある。いずれも準拠する基準がないなかで、自らが自由に「トランジションボンド」と名乗っている状態。
ただ、温暖化削減の効果としては、新規のグリーン事業にファイナンスするグリーンボンドへの期待は高いものの、すでに市場にあるCO2排出量の多い事業や資産のCO2排出量が変わらないと、全体のCO2排出量の削減ピッチは進まない。こうしたことから、これらのCO2排出量の多い「ブラウン事業」をグリーンに移行させるための投融資資金を調達するトランジションボンドの役割に急速に関心が集まっている。
Sustainalyticsはトランジションボンドを評価するアプローチを開発し、その中で「トランジション」の定義を、企業が経済全体の中で、セクターで、企業ベースで、あるいは個々の経済活動において、取り組む活動と位置付けている。そのうえで、ボンドの調達資金の使途（Use of Proceeds）については、移行のための事業とし、それらの事業活動は、2050年のネットゼロ経済目標と一致する排出削減経路に沿い、経済活動を脱炭素化するとしている。
これらの資金使途を明示したボンドは、企業の移行事業や同活動を支援する重要な手段となると同時に、明確な適格クライテリアと企業の信頼度の高い移行戦略を伴うことで、企業のビジネス活動を、長期の気候目標と整合する移行経路に沿ったシフトを促進できるとし、企業主体の移行にも資するとしている。
こうした定義づけで、同社が設定する評価フレームワークでは、トランジションボンドの適合性と信頼性の評価については、ボンドの発行時の調達資金の使途先の評価と、発行体の評価の両方を評価するとする。このうち発行時の評価では、同社独自の移行タクソノミーに基づいて評価するとしている。それらは国際的な科学ベースの目標（SBT等を指すとみられる）に基づくセクター別の適格クライテリアに基づいて設定するとしている。
そのうえで、多くの企業が取り組む移行活動は長期にわたるので、同社の評価フレームは発行体の長期の移行戦略にとって重要なものとなると指摘している。サステナブルファイナンス市場では、ネットゼロ目標に向けたイニシアティブとして、「Transition Pathway Initiative」や「Science Based Targets Initiative」などが、多くの企業によって目標設定や情報開示の手段として活用されている。
Sustainalyticsはグリーンボンド等のESG債に外部評価を付与するセカンドオピニオン市場において現在、グローバルリーダーの位置にある。しかし、ESG債自体が、サステナビリティリンクボンド、あるいはローン、トランジションボンドおよび同ローン等と、多様化しつつあるため、評価会社、格付会社等の競争が加速する傾向にある。まだ試行的なトラジションボンド市場のセカンドオピニオン付与では、ノルウェーのDNV GLが先行している。
Research Institute for Environmental Finance