欧州中央銀行、新型コロナ対策で化石燃料関連企業に76億ユーロの資金繰り支援。コロナ対策をグリーン対策とする「グリーンリカバリー」と矛盾。グリーンピースが指摘（RIEF）
2020-06-05 08:41:25
環境NGOのグリーンピース欧州によると、欧州中央銀行（ECB）が3月以来、新型コロナウイルス感染拡大で影響を受けた企業への資金供給として300億ユーロの社債買い入れ等を実施したが、そのうち76億ユーロ分は、化石燃料関連企業への支援だったと指摘した。ウイルス対策からの回復を「グリーンリカバリー」とするEUの基本方針に反すると批判している。スウェーデンの気候活動家のグレタ・ツゥンベリさんもこのニュースに接して、「EUのグリーンリカバリー計画の真剣さに疑問を感じる」とツィートしている。
（写真は、コロナ対策で閑散とした欧州中央銀行本部＝独フランクフルト）
ECBは3月12日の政策理事会で、ウイルス感染拡大に伴う影響緩和のための金融政策の包括的パッケージとして、追加の長期資金供給オペレーション（LTROs）の一時的導入でユーロ圏内の銀行への流動性供給や、中小・中堅企業への銀行による資金貸し出しを支援策等を盛り込んだ。その一つとして、債券・国債の購入プログラム（APP）として、2020年12月末までに民間部門を中心に1200億ユーロの資産を追加購入するとしている。
グリーンピースはこの債券購入（APP）プログラムによって、これまでに調達された民間社債300億ユーロの中に、化石燃料関連の大企業の社債が76億ユーロ分含まれているとした。それらの企業は、独電力会社EON、仏ガス会社Engie、エネルギー会社のシェル、トタル、Eniなど7社。電力会社から購入した社債の総額は44億ユーロ、エネルギー会社分は32億ユーロを超えているという。
グリーンピースはこれらの7社からへの76億ユーロの資金繰り支援によって、1120万㌧の温室効果ガスが追加的に大気中に放出されたと計算できると指摘している。ロンドンスクールオブエコノミクス（LSE）の指摘によると、欧州の公益事業会社はユーロ建て社債の発行比率は全体の5％に過ぎないが、ECBのAPPの購入対象の25%を占めるという。つまり電力会社の資金繰り支援にシフトしている可能性があるとしている。
日本の日銀もコロナ対策で企業向けのCP・社債買い入れの上限を大幅に引き上げているが、特定セクターへの資金繰り支援に偏している可能性もある。ただ、日銀の情報開示は不十分なことから、買い入れ対象企業名が公表されていない。
グリーンピースの気候エネルギーキャンぺーナーのAdam Pawloff氏は「ECBをはじめ、他の中央銀行は従来のやり方を変える必要がある。コロナウイルスへの対応としての企業への資金繰り支援は、対象企業に従来通りの事業活動の継続を許し、気候危機に影響を与え続けることになる。気候危機は加速しており、これ以上、公的資金を化石燃料関連企業に投じる余裕はないはずだ。 ECBは、社債購入プログラムから化石燃料関連企業やその他のCO2高排出企業を場外するべきだ」と指摘している。
そのうえで、ECBの金融政策全般に、気候リスクを盛り込む必要があるとしている。たとえば銀行がECBから資金借り入れをする際の担保債券からも化石燃料企業の社債等を除外することや、化石燃料関連企業への融資をする際は、銀行に対して資本の上積みを要請するなどの対応も求めている。
グレタさんは、グリーンピースの指摘をSNSでキャッチ、「ECBが過去2か月の間に、化石燃料企業に76億ユーロも資金提供をしたなんて。EUが提案している『グリーンリカバリー計画』への真剣さを疑いたくなる」とつぶやいた。
グリーンリカバリー策は、コロナからの経済回復を単なる景気刺激策とするのではなく、これを機に、欧州経済全体をグリーン化する方向に構造転換させようという狙いだ。欧州委員会も欧州議会も、協調して唱えている。にもかかわらず、ECBは旧来型のエネルギー企業や電力会社を重点的に支えてきた。「コロナ対策」という名目で。「EUの二枚舌」というところか。http://rief-jp.org/ct4/102619
https://www.greenpeace.org/eu-unit/issues/climate-energy/3942/ecb-bankrolling-climate-crisis/
https://www.ecb.europa.eu/press/pressconf/2020/html/ecb.is200312~f857a21b6c.en.html
Research Institute for Environmental Finance