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HSBCやUBSなどの富裕層向け欧州金融機関、中国の国家安全法施行を受け、香港富裕層の民主化運動への政治的信条、支援等を調査していることが判明。ESG的には課題(RIEF)

2020-07-22 22:42:40

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 中国による香港国家安全維持法が施行されたことを受け、香港の富裕層を顧客とする少なくとも4つの欧州大手金融機関が、顧客の民主化運動との関係を調査していることが明らかになった。顧客が民主化運動と関係があると、同法によって金融機関も調査等の対象になる可能性があるためとみられる。一方で、米国や英国は同法の適用に反発しており、金融機関が求められる顧客情報の秘密保持の原則に反するとの見方も出ている。

 

 ロイター通信が報じた。同報道によると、香港の金融事情に通じた6人の人々からの確認として、英HSBC、スイスのクレディ・スイス・グループ、ジュリアス・ベア、UBSの4行の名前が報じられた。いずれもプライベートバンキング業務で香港の富裕層との取引が深い金融機関とみられる。

 

 各金融機関は、自らの顧客の中に、香港の自由の維持を求めて民主化運動をする人々を心情的に支援したり、資金的支援等をしている人物がいるかどうかを調べているとしている。最近の公の場やメディアを通じた発言、ソーシャルメディアへの投稿などをチェックする。発言や行動から、民主化運動の支持者、あるいはシンパシーがあると判断されると、預かっている資金の出どころや取引の内容によって金融サービスの利用を制限したり禁止するなどの措置をとるという。

 

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 中には、米国の制裁を想定して国安法の施行に関与した中国や香港当局の関係者の資産についても調査を行っているところもあるとされる。2000億㌦以上の資産を運用するある富裕層向けサービス大手関係者は、対象者によっては2014年の「雨傘運動」時にまでさかのぼって、顧客の政治的な立場を調べているとしている。

 

 ただ、ロイターは調査の対象となった顧客を特定できていないほか、実際に調査によって各金融機関が民主化運動との結びつきが強い顧客に対して、特別の対応をとったかどうかは確認できていないとしている。

 

 名指しされた金融機関のうちHSBCは「われわれは既に世界的に厳格な対応を取っている」とコメントしている。一般的な顧客審査の範囲内での対応との考えを示し、国安法や米国の制裁については答えなかった。スイス系の3機関はコメントしなかった。香港の中央銀行に相当する香港金融管理局(HKMA)は「政治との関係が深い人物を含め、国際基準に基づいたマネーロンダリング(資金洗浄)防止策を実施している」と説明しているという。

 

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 金融機関側は、国安法によって顧客が訴追されると、サービスを提供した自分たちにも当局からの調査が入ったり、業務への影響が出る懸念を捨てきれない。金融当局からにらまれたり、評判リスクが高まる可能性もある。 ただ、マネーロンダリングなどの犯罪とは違い、顧客の思想に関係した領域を金融機関がビジネス上、考慮するべきかどうかは、極めて難しい問題であるのも事実だ。

 

 今回、HSBCとともに対象となったスイスの3金融機関を含むスイス金融界は秘密主義で知られる。彼らを世界の富裕層が信用して取引するのは、特定の金融当局からの関与等についても、慇懃に対応し、最終的には顧客の立場に立って秘密を守るから、とされてきた。今回も中国政府の圧力を慇懃に裁くことができるかどうか。

 

 金融機関が考慮しなければならないのは、当の香港の顧客の反応と、米中等の政治的駆け引きだけではない。グローバル市場でESG評価の重要性が高まる中で、特定の国の当局の意向を踏まえて、顧客の信条や思想等の「ソーシャル情報」を精査し、当該当局に情報を提供する可能性のある金融機関だとみなされると、他の市場においては、富裕層だけでなく、一般の利用者からも敬遠されるリスクが高まる。(RIEF)

 

https://www.reuters.com/article/us-hongkong-security-wealth-exclusive/exclusive-global-banks-scrutinize-their-hong-kong-clients-for-pro-democracy-ties-sources-idUSKCN24L096