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「金融による生物多様性誓約(FBP)」、26の金融機関が署名。投融資に際して生物多様性の正負のインパクトを評価、投融資に反映。生物多様性を会計的に評価する「PBAF」も始動(RIEF)

2020-09-26 21:58:57

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 欧州の資産運用や保険会社を中心とした金融機関26社が、生物多様性の目標を資産運用に盛り込むとともに、世界のリーダーに向けて積極的に働きかけることを宣言する「Finance for Biodiversity Pledge: FBP(金融による生物多様性誓約)」に署名した。署名機関は、①相互の協力と知識の共有化②企業とのエンゲージメント③インパクト評価④目標設定⑤情報開示、の5項目を遅くとも、2024年までに実践する。現時点では日本の金融機関の署名はない。

 

 署名機関はAXA(仏)のほか、仏預金供託金庫(仏)、エイゴン (オランダ)、ラボバンク(同)、HSBC Global Asset(英)、J Safra Sarasin (スイス)など。26機関中、21機関が欧州勢。残りは米から2機関、カナダ、豪州、南アからそれぞれ1機関が参加した。

 

 FBPは国連開発計画(UNDP)が25日にオンラインで開いた「the Nature for Life Hub」で公表された。署名機関を代表してAXAのCEOのThomas Buberl氏が、30日に開く国連総会でFBPの設立の宣言と各国首脳への呼びかけを行う。

 

 FBP宣言と共に、FBPにも加わっているオランダのASNbankが主導して開発していた生物多様性を会計的に評価する「Partnership for Biodiversity Accounting Financials (PBAF)」の第一弾の評価手法のアウトラインも公表された。PBAFは投融資先のカーボン排出削減を評価・促進する方法論の開発を進めている「 Partnership for Carbon Accounting Financials (PCAF)」の生物多様性版だ。https://rief-jp.org/ct6/105776

 

生物多様性のインパクトアセスメントの一例( Biodiversity Footprint Financial Institutions (BFFI) )
生物多様性のインパクトアセスメントの一例( Biodiversity Footprint Financial Institutions (BFFI) )

 

 PBAFの考え方は「Paving the way towards a harmonised biodiversity accounting approach for the financial sector」と題した基本文書で示された。この中で「金融機関用の生物多様性フットプリント(Biodiversity Footprint Financial Institutions :BFFI)」と「グローバル生物多様性スコア(GBS)」が示されている。前者はASNとPRé Consultants、CREMの三者の協働で作成し、後者はCDC Biodiversitéが開発した。https://www.pbafglobal.com/

 

 これらの手法をライフサイクルアセスメントのインパクト・アセスメント(LCIA)手法であるReCiPeの pressure-impact modelを含むインパクト評価ツールにおいて活用する。評価に際して重要になるのは、投融資先の生物多様性データの信頼性だ。仮に金融機関が投融資先から直接データを得る場合、あるいは欧州のExioBaseやEcoInvent等のオープンソースのデータベースからセクター平均のデータを使う場合、それらについては明確に説明されねばならないとしている。

 

 ASNのCEOの Arie Koornneef氏は「PBAFの基本的な目標は、金融セクターが利用可能な生物多様性の共通会計基準を開発し、投融資先の根本的な変革を支援することにある。PBAFをプラットフォームとして、生物多様性とエコシステムの保全と回復のための投資家としての『ownership』を果たし、われわれの活動を高めていきたい」としている。PBAFは2021年にこうした共通のガイドラインの実用化を目指す方針という。

 

太陽光発電事業による生物多様性への影響、㊧オランダ㊥ベルギー㊨フランスーー国によって影響の範囲も度合いも異なる
太陽光発電事業への投資による生物多様性への影響、㊧オランダ㊥ベルギー㊨フランスーー国によって影響の範囲も度合いも異なる

 

 FBPでは、署名金融機関は自らの投融資活動を通じて生物多様性にポジティブな貢献をするために、自らのビジネス活動に伴う生物多様性インパクトを評価・関与することを誓約する。また遅くとも2024年までに、生物多様性版のサイエンス・ベースド・ターゲット(SBT)とレポーティングの開発に貢献する。そのために、署名機関は評価手法や生物多様性関連の基準と目標、ポジティブインパクトのための金融的アプローチなどの5項目の実践を掲げている。

 

 AXAのCEO、Buberl氏は「これまでの5年間、企業は気候変動との闘いで重要な決断を重ねてきた。同様に、生物多様性の保全についても企業の強い行動とともに、気候変動と同じようにすべてのステークホルダーとの幅広い共同コミットメントを必要とするものであると確信している。そのためには、共通のフレームワークと国際的でかつ科学に基づいた生物多様性目標が必要だ」と指摘した。

 

 そのうえで、「生物多様性の保全に向けた投資家と保険業界の行動を支援する幅広い合意が必要となる。さらに各国政策当局もこうした民間の努力を行動を支援する必要がある」と述べ、官民連携での行動の強化を求めた。

 

 5項目の行動目標のうち、①の「相互の協力と知識の共有化」では、評価手法や基準、目標、ポジティブインパクトのための金融的アプローチを共同で開発し、共有化することを目指す。②の「企業とのエンゲージメント活動」では、①で開発した生物多様性評価のクライテリアを金融機関のESG政策に統合し、企業への投融資活動に際して、生物多様性にネガティブなインパクトを減じ、ポジティブなインパクトを支援するエンゲージメントを展開する。

 

 ③の「インパクト評価」では、金融の投融資活動に伴う生物多様性へのポジティブ、ネガティブを評価し、④そのうえ、最善の利用可能な科学に基づいた目標を設定し公表する。それによって、自らの金融活動や投資ポートフォリオとリンクするグローバルな生物多様性目標へのポジティブ、ネガティブ両面の重要な貢献についての透明性を高める。


https://www.financeforbiodiversity.org/launch-the-pledge/

https://www.pbafglobal.com/files/downloads/PBAF_commongroundpaper2020.pdf