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効果的な温暖化対策を実施しない場合、世界のGDPは2050年に18%減に。アジアを含む途上国の打撃大きい。ASEANは全体で37.4%減に。日本12%減。スイス再保険が試算(RIEF)

2021-05-07 17:14:32

SwissReキャプチャ

 

 2050年までに追加的な気候変動対策を講じない場合、気温は産業革命前以来で3.2℃の上昇となり、世界の国内総生産(GDP)は18.1%減少するとの試算をスイス再保険が報告書で公表した。特に中国を含むアジア経済が最も大きな打撃を受ける。パリ協定の「2℃目標」以下に抑制できた場合、GDPの減少率は4.2%にとどまる。日本のGDPは最大で12%の減少となる。

 

 試算は、世界のDPの9割を占める48カ国を対象として実施した。IPCCの推計に基づく気温上昇のシナリオ分析を、2050年までにパリ協定の2℃目標、2.6℃上昇、3.2℃上昇で推計。それぞれに基づいて、Moody’s Analyticsによる気候変動による6つの慢性的リスク分析の「インパクト・チャネル」モデルを活用した。

 

 同モデルでは気候変動の影響を受ける分野として、農業活動(干ばつの増大)、人の健康(罹患率、死亡率の上昇)、労働生産性(熱ストレス)、経済活動地域での海面上昇と洪水リスク増大、観光の流れ、エネルギーに対する家計の需要の6つの経路を通じた影響を分析した。さらにサプライチェーンリスク、貿易への影響、移民、生物多様性等の不確実な潜在的リスクの影響を「テールリスク」と位置付け、リスク要因を5倍のケースと10倍のケースに分けて推計した。

 

 その結果、50年までの世界GDPへの影響は、2℃シナリオの場合で11.0%減、2.6℃上昇で13.9%減、3.2℃上昇では18.1%減となった。パリ協定が目指す「2℃」より十分低く抑制する場合は、4.2%減にとどまる。地域的には特に南北(先進国と途上国)の影響度の違いが明瞭だ。OECD諸国の場合、3.2℃シナリオでの影響は平均10.6%。これ対して、ASEANは37.4%減、中東とアフリカは27.6%減と、OECDの3.5倍から2.6倍も経済が落ち込むことになる。

 

 最悪の3.2℃上昇シナリオでは、国別では、シンガポールの46.4%減が最も大きな影響で、次いで、マレーシア(46.2%減)、フィリピン(43.9%減)、タイ(43.6%減)、インドネシア(39.5%減)、サウジアラビア(35.5%減)、インド(35.1%減)等と、アジア、中東での影響の大きさが浮き彫りになった。中国は23.5%減。

 

 米国は9.2%減、フランス13.1%減、ドイツ11.1%減、英国.7%減。日本も12.0%減。これらの先進国はインフラの整備が相対的に行き渡っているので、物理リスクを制御できることが大きい。また温暖化対策の規制もすでに導入されているところが多く、移行リスクも制御可能だ。

 

 日本の場合は四方を海に囲まれているので、慢性的な海面上昇のリスクが他の先進国よりも高いほか、台風の影響が都市部を含めて発生する点を指摘。気温上昇の影響で農業生産が低下するほか、熱ストレスの増大は、夏季の高温日に人の生産性にマイナスの影響を及ぼすとしている。その一方で、日本は自然災害に対するインフラが堅牢なので、適応力は高い、と分析している。

 

 スイス再保険のチーフエコノミストのJérôme Haegeli氏は「気候変動はシステミックリスクであり、グローバルに対応する以外に解決できない。現状はほとんど対応ができていない。特に、気候変動に対して脆弱な国の経済への市場資金の流れを高めることが必要だ」と指摘している。

https://www.swissre.com/media/news-releases/nr-20210422-economics-of-climate-change-risks.html