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東電福島原発事故の「想定された問題点」をスイスUBSが分析レポート(FGW)

2011-05-07 23:23:30

東電福島第一原発事故の教訓: UBS Investment Research 「Can nuclear survive Fukushima?」: スイスの金融機関UBSが、投資家の立場から東電福島原発事故を分析したレポートをまとめている。それによると、地震は未曾有の規模だったが、それですべてが「想定外」として免責されるわけではないことが明確に指摘されている。非常時対応の不十分さ、バックアップシステムが独立していなかった、危機管理体制の遅さと情報提供の乏しさ、使用済燃料の管理の不十分さ、冷却システムの不完全さ等。政府関係者も熟読してください。(訳はFGW)

以下の訳はレポートの一部の「Lessons to be learned」と題した部分

①非常事態に対する十分な保護体制

 今回の原発事故の主要な要因は、東電の想定を越えた高さ14mに達した津波の高さだった。これは東電の防潮堤の二倍以上にも達した。今回の地震は日本で過去最大の震度だったが、福島を襲った津波の高さは1896年に起きた明治三陸地震のほうが今回よりも高かった。こうしたことを思うと、規制当局は過去の経験を体系的にとらえ、最悪の可能性に備えているべきである。

 保護体制でカギになるのが、規制当局と政治家がテロリスト活動に対して如何に対応するかという点である。例外はあるが、地震多発地帯での大半の原発は、最悪の自然現象に備えた十分な安全対策をとっていると信じている。ただ、サボタージュ等を完全に封じ込めるのはほぼ不可能ではある。

②バックアップシステムの相互依存性

 今回の地震は発電所が電源を喪失し、津波が発電所の予備電源(バックアップ)も破壊した。津波によって外部電源へリンクする接合部分も水没してしまった。このことは、福島原発で各安全システムが相互に独立したものだったのかという疑問を提起する。安全システムの品質、精度、相互依存性を検証しなければならない。今回の事故で判明したバックアップ電源の問題は、世界中の原発において新たな規制強化につながるだろう。しかし、バックアップ電源改善のための支出は一基当たり数千万㌦位に収まるので、新規原発建設を止めるほどの負担にはならないだろう。

③鈍感なクライシス管理体制とコミュニケーションの欠如

 すでに日本においても、国際的にも批判にさらされているように、今回の事故で日本が示したクライシスマネジメント(危機管理)は、スローで、かつ場当たり的だった。海水による冷却手段は直ちには採用されなかったことが、原発の炉の破壊を進めたと思える。炉が過熱する前に冷却するという重要な時間を失った。また使用済み燃料プールの冷却のために消防車などからの放水をしなければならなかったことは、事態への想定が前もってできていなかったことを物語る。

情報の提供も部分的で遅かった。しかも、今もそうである。我々分析者にとって、もっとも役に立つ情報は、しばしば他の国(米国やフランス)の当局から得られた。ワーストシナリオを事前に想定した、もっと明確な危機対応計画が求められるべきだと思う。これは必ずしも高い費用を要する問題ではなく、組織としての対応力の問題である。

④旧式の原発

 福島の原発は日本で最も古い形式だった。より新しいタイプの原発は福島でも女川でも地震の震源地に近いところにあっても、同じような問題を起こさなかった。最新の原発はより堅牢になっており、旧式のものより安全であるのは間違いない。原子炉の使用年限もまた安全性のわかりやすい指標である。適切な使用期限をどう設定するかは政治的議論の対象となる。技術的な観点からは、今回の事故において少なくとも3つの領域について、当局は事故原因の要因分析をすることになるだろう。

⑤使用済み燃料の不十分な保護体制

 福島原発では、使用済燃料プールの放射性物質の拡散が、原子炉からの拡散と同様に起きた。原子炉内の燃料は何重にも保護策が施されているが、プールに入れられた使用済燃料については単に建屋で覆われているだけだった。その建屋は事故当日に屋根が吹っ飛んでしまった。現在のところ、放射性物質漏れの大半は使用済燃料関連とみられる。

 我々は当局に対して使用済燃料の安全管理をしっかりするよう求めたい。その方法としては、使用済燃料を速やかに原発から別の場所に移管するか、あるいは建屋内に置く場合はよりしっかりとした安全体制をとることである。このことは原子炉への燃料補給に時間がかかるということを意味し、プロセスの長期化によって放射性物質による作業員の被ばく可能性も高まる。さらに、原発内で使用済直後の使用済燃料をプールするための新期設備を設置するなどの費用を必要とする。これらのコストは原発を閉鎖しなければならないほどの多額に及ぶものではないが、追加投資を必要とし、原発の稼働率を数%低下させるだろう。

⑥能動的な冷却設備の導入

 新しい原発は、非常時の冷却を確実にするため、汲み上げ方式による冷却の必要性を軽減するデザインをとっている。例えば、ウェスティングハウスのAP1000タイプは、重力方式による自然循環システムで、汲み上げもファンなども一切使わないで、原子炉の完全停電に対応可能である。しかし、現在の原発はアクティブ汲み上げ方式を採用しているところが多い。我々は、原子炉に重要な問題が生じる前に、非常時の電力供給を再設定することに時間を費やす必要があると考える。

事故当初の議論は、福島が沸騰水型(BWR)で、他の新しい原発の多くが加圧水型(PWR)だという議論だった。一般論として、BWR技術が安全性という点で劣っているとは、我々は思わない。BWR型は低圧力、低温度で操作が可能で、それらに伴うリスクを低減できると考えられてきた。一方のPWR型はもっぱら、BWRよりも効率的に発電できるという点で選ばれてきた。しかし、PWRは電源喪失に際してより時間的余裕を持てるだろうということもいえる。PWRは二つの冷却装置を持っているがBWRは一つしかない。ただPWRはより多くの冷却水が必要であるなどの点もある。安全性を点検する際、これらの点も重視する必要がある。

⑦地震地帯の国境沿いにある旧式原発がもっともリスクが高い

 技術的評価に加えて、原発の政治的評価も必要になるだろう。政治家は、原発の信頼性を再構築するために、福島事故から学んだことを示すために、いくつかの原発を閉鎖する必要があるかもしれない。これまでの議論などを踏まえると、こうした閉鎖対象原発は、4つのクライテリアに基づいて選別されると思われる。理論的には、第一に、閉鎖対象となる原発は、安全性評価で重要な問題が明るみに出たところとなるはずだ。しかし、現実的には、閉鎖対象は、それよりも、もっと簡単な根拠に基づく犠牲として、取り上げられるかもしれない。

 使用年限が、2つ目の主要なクライテリアとなるだろう。原発が古ければ古いほど、閉鎖対象として選ばれるリスクも高い。旧式の原発が新しいものより問題がありそうだというのはわかりやすいし、たぶんそうである。

 3つ目のクライテリアは、地震あるいは異常気象リスクへの対応である。地震多発地域の原発派閉鎖されるリスクがより高い。特に、米国のように、地震の起きない地域を抱えていると、地震地域の原発は問題視されやすい。

 4つ目は、国境近くの原発である。特に、隣接国が原発を保有していない場合、当該原発は常に批判を引き起こす。日本以外の地震多発地域としては、台湾や米国西海岸があげられる。

⑧MOx使用による燃料リスク増

 福島第一の第3原子炉は、混合酸化物燃料(MOx)を使用していた。93%のウラニウムと、7%のプルトニウムの混合燃料で、これが放射性物質を大量に漏洩させている。今後の原発の安全性を評価においては、MOxの使用制限も考えられる。