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設立10年を迎える国連責任投資原則(PRI) 活動の推進者と活動評価者の「二つの役割」は妥当か。PRI主催の国際会議で問題提起(RIEF)

2016-06-23 22:47:29

PRIキャプチャ

 

  日本の年金積立金運用管理独立行政法人(GPIF)の署名で日本でも知られるようになった国連の責任投資原則(PRI)の役割についての議論が浮上している。

 

 PRIは今年で設立以来、10年を迎える。このため各地で10周年記念イベントを開いており、このほどロンドンで開いたイベントのパネルで議論が起きた。

 

 ドイツの保険会社AllianzのESG部門トップのUrs Bitterling 氏が、個人的な意見として、「PRIは責任投資の推進者として成功してきた。だが、同時に、同投資の評価者の役割を担うことはできないと思う」と述べ、問題提起した。

 

 PRIは2006年、当時の国連アナン事務総長が年金基金などの機関投資家に呼びかけて、資産運用の際、ESG要因も考慮する活動を促進してきた。そうした活動を推進するために6つの原則を掲げ、現在では60兆㌦以上を保有・運用する1500以上の年金等の機関投資家や投資運用機関等が署名している。

 

 Bitterling氏はこうした活動の成果を称賛する一方で、「(PRIが資産運用の)評価者となることは拡大解釈だと思う」と指摘した。同氏の意見に対して、非営利団体でESGガイドラインを公表しているGlobal Reporting Initiative(GPI)議長のChristianna Wood氏も「そう。(PRI以外の)だれか他の機関が投資家のESG統合を評価するべきと、私も思う」と賛同した。

 

 

 Wood氏はさらに「(PRIの)対外的に責任投資を促進する役割を果たしながら、内部的に誰が責任投資をうまくやっているか、あるいはやっていないかを決めるというビジネスモデルは、それなりの議論を伴い、非常に不安定で緊張を高める」と懸念を表明した。

 

 二人の指摘は、PRIが3年前から、署名機関からESG投資の動向を把握するために情報開示の報告を徴求し、評価作業も行っていることを念頭に置いたものとみられる。PRIが求める情報開示の内容が細かいことと、その評価に「客観性」があるのか、責任投資推進の要求に基づくものかが混然している、との批判が従来からある。

 

 この点に関して、PRI事務局長のFiona Reynolds氏は、「報告フレームワークは責任投資の世界最大のデータベースであり、 適切に責任投資を遂行している機関を明確にするために役立っている」と説明している。

 

 PRIの報告徴求要請は、金融機関や投資家にとって、温室効果ガス排出量等の環境情報の自主的報告制度となっているCDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)の活動とも、一部、重複感が起きている。

 

 ただ、問題はPRIの「二つの役割」に対する懸念だけではない。以前にも指摘したが、PRIと国連環境計画(UNEPFI)あるいはUNEP Inquiryなどの、温暖化に関連した金融機関の投融資の促す活動も、ある部分は重複している点がある。また、GRIの活動も、ESGの自主的ガイドライン提供から、情報開示のレポーティングの領域にも広がりつつあり、CDP、PRIとの“競合”も予想されている。

 

 こうした準公的な非営利活動の範囲と役割の重複問題が生じるのは、これらの活動がESGという非財務領域を扱い、かつ、いずれも自主的活動をベースにしていることも一つの要因といえる。

 

 仮に、国際的な金融監督当局で構成する金融安定理事会(FSB)が進めている気候変動が企業活動に及ぼす影響の情報開示ルール化が定まると、少なくともCDPの報告活動や、PRIの情報開示要請の一部(温暖化関連)より、FSBのルールへの対応が優先されるとみられる。FSBのルールが義務的になるかどうかは不明だが、資産運用を含めた金融機関の行動に対しては、PRIやCDPよりも、より強い拘束性を持つとみられるからだ。

 

 

 パネルに参加したもう一人のパネリストのMercerのプリンシパルのJane Ambachtsheer氏は、 PRIの今後10年の3つの役割として、①グローバルに広がる新たな責任投資イニシアティブ間の調整役②年金等のメインストリームの投資家が、より良い形でESG要因を統合するベストプラクティスを採用することがし易いようなReference point(参照拠点)として活動する③投資コミュニティを通じて持続可能な発展目標を実現する――ことを提案した。

 

 Ambachtsheer氏の提案は、調整役、アドバイサー役としてのPRIと読むこともできる。発足10年で、PRIがその役割を改めて問われていることは間違いない。

 

https://www.unpri.org/anniversary