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バチカン銀行(IOR)役員たちが、ヘッジファンド等を通じて化石燃料企業へ投融資継続。ローマ法王の「温暖化回勅」を"無視"の形(RIEF)

2016-07-26 16:50:14

Roma

 

  ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王は、昨年6月に「気候変動回勅」を出すなど、温暖化対策を全面に押し出した活動をしているが、お膝元のバチカン銀行(宗教事業協会:IOR)の主要役員が相次いで、化石燃料株投資に関わっているほか、温暖化懐疑論のキャンペーンへの資金供給も行なっていたことがわかった。

 

 Greenpeaceなどが指摘した。疑惑は、まず、バチカン銀行役員のSir Michael Hintze氏に集中する。Hintze氏は、元ゴールドマンサックスの株式トレーディング部門のトップを経て、1999年に租税回避地ケイマン諸島のヘッジファンド、CQSケイマンを創設、現在もCEOを務めている。同ファンドは830万㌦の資金をエネルギー産業に投じており、うち170万㌦はシェール油・ガスのフラッキング専業のDevon Energy とAnadarko Petroleumに投資しているという。

 

Hintze氏
Hintze氏

 

 同氏は英国保守党の支持者であり、特に温暖化懐疑派のシンクタンク、 Institute of Economic Affairsを支援してきた。また元英蔵相で懐疑派のナイジェル・ローソン氏の政治圧力団体「Global Warming Policy Foundation(GWPF)」を資金面で支えてきた英国の欧州連合(EU)離脱の推進者でもあり、英国の国民投票の前日、10万ポンドを離脱派に寄付していた。

 

 GWPFはフランシスコ法王が昨年6月に出した温暖化に関する回勅を批判、「バチカンは科学性を欠き、倫理的にも疑わしい気候変動に関する声明をアドバイザーたちによって出し、道を誤ってしまった」と指摘している。法王の回勅を、お膝元のバンカーたちは“鼻であしらって”いたことになる。

 

 もう一人はドイツ人銀行家の Clemens Boersig氏。5月に辞任したが、ガス会社Linde AGの役員として昨年は21万8000㌦の報酬を受け取っていた。現在も同社の監査委員会に所属している。Linde 社は産業化学や健康ケア、エンジニアリングに強い会社。同時にインドでの石炭ガス化事業や、イランでの石油精製事業にも加わり、化石燃料だけでなく、水素エネルギーへの関与も強めているという。

 

De Franssu氏
De Franssu氏

 

 IORの改革のため、フランシスコ法王に要請されてIOR頭取となったJean-Baptiste Douville de Franssu氏も複数の化石燃料ファンド、企業との関係が指摘されている。De Franssu氏はフランス人バンカーで、資産運用会社のInvescoのCEOを経て、2014年にIOR入りした。Greenpeaceによると、同氏は、La Francaise des Placement SAS、資産運用会社のCarmignac Gestion SA、それにベルギーの民間企業のPetercam SAなどと関係がある。

 

 このうちのCarmignac GestionというファンドはHintze氏のファンドと同様、米国のフラッキング会社のAnadarko の株に6億7520万㌦を投資している。Anadarkoは子会社が2014年の訴訟で、環境汚染問題で51億㌦の損害賠償を支払っている。また同ファンドは、2070万㌦以上のエクソン・モービル株と、2260万㌦以上のシェル株を保有している。La Francaise des Placements はシェル株を1000万㌦保有している。

 

 フランシスコ法王は昨年発した回勅で「人類自身の利益のために自然社会を破壊することは、神と将来世代に対する原罪である」と指摘、温暖化対策を重視するよう世界に呼びかけた。

 

 同回勅を受け、IORは化石燃料企業向け投資のDivestment(投資引き揚げ)を含め、より積極的にESG投資を推進する方向性を打ち出していた。De Franssu頭取も2015年のアニュアルレポートを公表するラジオ番組の中で、「(昨年の)回勅に反する企業への投資配分は一切ない」と言明した。

 

 IORの役員にすれば、銀行の資産運用と個人の資産運用は別、ということかもしれない。しかし、法王の回勅がIORを運営する役員たちにとっては軽視されている形になる。化石燃料への投融資を引き揚げるDivestment運動を展開している非営利団体350.orgやGreenpeaceなどの環境団体は、IORとその役員たちは法王の回勅に即したDivestment活動を実施すべき、と要請している。

 

 銀行のスポークスマンの Max Hohenberg氏は、英紙に対して、「銀行資産の95%は各国国債に投資されている。 運用総額は約60億ユーロ」と説明、銀行幹部の化石燃料投融資の行動はマイナーな影響でしかない、とのスタンスを示している。

 

 Greenpeaceの調査に対しては、銀行はコメントを控え、De Franssu氏やHintze氏もコメントを拒否しているという。

http://www.ior.va/content/ior/en/governance.html

http://energydesk.greenpeace.org/2016/07/19/pope-francis-vatican-bank-fossil-fuels/