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エクソンモービルの化石燃料資産評価問題で、ニューヨーク州司法長官が、監査法人PWCの監査資料提出を要求。PWCはCDPの有力アドバイザーであり、適切な温暖化評価指導をしたかが問われる(RIEF)

2016-11-28 17:17:09

exxonキャプチャ

 

 石油メジャー最大手のエクソンモービルの関連資産の評価問題を調査しているニューヨーク州のシュナイダーマン司法長官が、エクソン社の監査を担当するプライスウォーターハウス(PWC)の監査姿勢を精査する方針を示した。PWCは温暖化による企業活動への影響を調査する英国のCDP(旧名:カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)に長年アドバイスしてきたことで知られる。

 

 ニューヨーク州のエクソンへの調査は、2014年の原油価格の急落後時に、他の石油大手は軒並み経営悪化したが、エクソンは関連資産の評価損を計上しておらず、投資家などから疑問が指摘されていた。エクソン側は、同社の場合は油田などのもともとの価値を極めて小さく見積もっているため。評価損の発生リスクそのものが低い、と説明してきた。

http://rief-jp.org/ct4/64460

 

 同社の財務を監査する監査法人のPWCは温暖化の影響が企業財務に及ぼす問題の専門家として知られ、これまでもCDPの活動にいろんな形でかかわってきた。CDPの最新の報告書では、エクソンは他のシェル、サンコールとともに、温暖化関連の情報開示の不十分さを指摘され、低い評価をされている。

 

 PWCキャプチャ

 シュナイダーマン長官は、CDPの評価の低いエクソンなど3社がいずれも、カナダのオイルサンド事業に従事している点で業務内容に共通性があるとみている。このため、監査法人のPWCが、エクソンの抱えるオイルサンドの資産リスク等をどう評価し、彼らの評価やアドバイスをエクソンがどう財務内容に反映したのか、あるいはしなかったのかを知りたいとしている。

 

 特に、同長官は、監査法人がCDPに対してカーボンリスクを説明しているのと同様のことをエクソンにも説明したのかどうかを調査したいとしている。米InsideClimate Newsによると、CDPの最新のレポート案では、「エクソンの業績は、温室効果ガスの排出量、気候変動ガバナンス、戦略的評価の点において、他の石油企業よりレベルが低い」と位置づけられているという。

 

 これらの分析から、エクソンおよび、CDPの評価で低スコアになっている他の石油企業は、今後の温暖化規制の強化に伴って、持続可能性という観点から見ると高い投資リスクを抱えていると指摘されている。ただ、CDPによると、PWC自体はこの最新レポートの作成にはかかわっていないという。

 

 CDPキャプチャ

 

     ニューヨーク州の司法当局は、エクソンは早い段階から温暖化問題の原因やリスクについて理解しており、規制の強化が自らのビジネスに影響を与えるリスクについても承知していたとみている。そうした明白な理解をもっていたにもかかわらず、同社の財務報告などでは、そうした温暖化リスクが資産評価等に及ぼす影響について軽視してきた、とみている。

 

 司法当局がこれまでエクソンに求めてきた資料提出分量は実に120万ページにおよぶという。しかし、PWCに関する資料要請に対しては、ほとんど回答がなく、10月中旬までに提出されたのは97ページ分だけ。この中にはPWCのCDPでの活動についての文書も含まれるとされる。

 

 エクソンは同社の本社があるテキサス州の法律では、担当の監査法人はそうした提出義務から保護されていると反論している。だが、ニューヨーク州の裁判官は先月末、エクソンに対して改めてPWCから受けた資料の提出を命じた。これに対してエクソンは控訴するとしている。一方、裁判官側は「クリスマスまで待つわけにはいかない」と早期の提出を求めているという。

 

 温暖化の影響が化石燃料の資産価値を減じるという「座礁資産」リスクを承知していたはずのPWCが、エクソンに対して、適切なアドバイスをしたのにも関わらず、同社がそれらのリスクを資産評価に反映させなかったとすれば、証取法違反の疑いが出てくる。そうではなく、PWCが顧客企業のエクソンに対しては、そうしたリスクを承知しながら、資産評価に反映させないことを黙認したとすれば、PWC自体が問われる。

 

 また企業が抱える温室効果ガス排出量の自主開示を促進するCDPという非営利活動への参画の一方で、企業の財務監査を引き受けるビジネス活動の間で、「二重基準」をとっていたとすれば、監査法人として責任問題も浮上してくる。PWC自体が自らの役割に不明朗さがあるのかどうかを明らかにする局面も近いかもしれない。

 

http://corporate.exxonmobil.com/

http://www.pwc.com/gx/en.html