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日ロ経済協力合意 資金面は国際協力銀行などの公的資金依存。メガバンクは政治リスクの懸念で慎重。米欧制裁発動の可能性も(RIEF)

2016-12-19 21:55:45

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 日本とロシア両国は、北方領土での共同経済協力で合意し、国際協力銀行(JBIC)と8項目の「協定プラン」を締結した。それによると、JBICがロシア直接投資基金(RDIF)と10億㌦(約1100億円)規模の投資基金を設けるほか、総額約3000億円規模の資金協力の枠組みを設定するという。だが、米欧諸国の対ロ経済制裁との兼ね合いなど、不確実な要素が付きまとう。

 

 JBICとRDIFはすでに2013年に日本企業の対ロビジネス展開を支援する枠組みとして、日ロ投資プラットフォームを設立している。同プラットフォームにはロシア開発対外経済銀行も参画、日本企業による対ロ投資・事業を後押ししてきた。今回の共同投資枠組みは、その民間支援の枠組みを強化するファンドを立ち上げる。

 

 同投資ファンド設立が典型だが、両国政府は日本の公的資金を使って日本企業を後押しし、ロシアのシベリア、極東地域の開発への投資を促そうという仕組みだ。

 

 具体的投資事業をみても、日本の公的機関が先導する形が鮮明だ。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は国策会社の国際石油開発帝石(INPEC)と連携し、民間の丸紅を取り込んで、ロシアの国営石油会社のロスネフチと、サハリン島南西海域での炭化水素の探鉱事業での覚書を締結した。

 

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 また新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、サハ共和国政府、発電会社のルスギドロとの間で、極東地域での風力発電普及の意向表明書に署名した。

 

 金融機関では、三井住友銀行は、ロシアのアルファ銀行との間で総額1億5000万ドルの輸出入業務向け融資で提携した。この三井住友銀の融資分は、貸し倒れリスクに備えて、日本貿易保険(NEXI)の信用枠を設定している。

 

 このほか、三井住友銀は、みずほ銀行とともに、国営企業のガスプロムに対して、約8億ユーロの協調融資を決めた。ガスプロムはサハリンにLNG生産設備の建設を目指しているほか、日ロを結ぶ天然ガスのパイプラインの建設などに意欲を示している。

 

  みずほ銀は、フィンテック分野でロシア最大手銀のズベルバンクと2011年から業務協力協定を結んでいるが、今回の日ロ経済協力に合わせて、業務提携を拡大したと発表した。

 

 ロシアに対しては米欧諸国は2014年のクリミア半島の軍事的編入に抗議して、経済制裁を実施している。日本も同調している。だが、日本は北方領土交渉を重視して、エネルギー分野は制裁の対象外にしているほか、金融面でも欧米は指定した金融機関や企業への新規融資を禁じているが、日本は継続するなどの足並みの違いがある。

 

 今回の3000億円規模の経済協力は、こうした日ロ関係を踏まえたものだ。しかし、グローバルにビジネスを展開している日本企業、特に金融機関は、対ロ投融資に積極的だと、米欧市場で間接的な不利益を被るリスクも抱えている。そこで、今回の日本政府主導の「協力プラン」では、万一の場合の民間側のリスクを、日本の公的機関が肩代わりできる体制で臨んでいることがわかる。

 

 ロシア側が今後に期待しているのが、電力大手ルスギドロへの日本側の出資だという。JBICと三井物産が共同で出資を行い、サハリンに天然ガス発電所を建設し、その電力を北海道に送電するという「エネルギーブリッジ構想」の進展だ。

 

 実現すると、日本で初めて国際的な電力連係線の実現となる。だが、北海道の電力需給では経済的な採算がとれないとみられているほか、安全保障上の議論が不十分な点もリスクとみなされている。

 

 安倍政権は、JBIC頼みで、こうした案件にも公的資金を投入する“前のめり”の姿勢のようだ。しかし、対ロ案件は経済性だけでなく、政治的リスクも高い。それだけに、事態が変化して約束した公的資金主導の枠組みが行き詰まる可能性もあると思われる。

 

 リスクはロシア側にあるだけではない。トランプ次期米大統領は、プーチン大統領と気が合うとみられている。しかし、逆に両氏とも、「自国ファースト」の姿勢が顕著でもある。いつ何時、米ロの対立が激化するかは不明だ。

 

 こうした流動的な政治状況の中で、領土交渉を棚上げして、経済協力だけを先行させる安倍政権の「政治的選択」が、吉と出るか凶と出るか。現時点では読めない。政治主導路線の先鋒役を担わされたJBICは今年、収益が高いインフラ案件に投資する「特別勘定」を創設した。

 

 これは、これまでのように全ての案件の採算を黒字にする方針を改め、勘定全体で黒字維持を目標にするもの。政府は第2次補正予算で、JBICへの出資金を増やし財務基盤を整えている。ある意味で、損失覚悟の対応ともいえる。

 

 ロシア問題に詳しい袴田茂樹新潟県立大学教授は次のようにコメントしている。

 

 「企業が自らのリスクで進出するなら全く問題ない。ただ政治主導の案件はうまくいった例はあまりない。インフラを整備してもロシアのものになる。企業にメリットがあれば、政府が声をかけなくても出て行く。政府がリスクを背負って資金を出せば、税金で負担する。平和条約交渉とバランスをとるべきだ」

 

http://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2016/1216-52213

http://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2016/1216-52188

http://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2016/1216-52231