取引先企業で起きる人権問題への銀行の責任。国連人権高等弁務官事務所（OHCHR）が銀行団の限定解釈案を修正する文書公表（RIEF）
2017-06-19 00:54:02
国連の人権高等弁務官事務所（OHCHR）は、銀行の取引先企業向けの投融資活動が、当該企業が引き起こす人権問題との関わりについての解釈文書を出した。国連の「ビジネスと人権に関する指導原則（UNGPs）」の銀行部門への適用の解釈について、欧米銀行団が、銀行の責任を限定する解釈を示したことを修正する形だ。
（写真は、シリア内戦で治療を受ける子供の様子。使用された武器への銀行の融資責任が問われる）
議論になっている国連の人権指導原則は、2005年に「企業と人権」に関する国連事務総長特別代表に就任したジョン・ラギーを中心とするグループが策定した「ビジネスと人権に関する国連フレームワーク（UN Guiding Principles on Business and Human Rights） 」を発展させ、最終的に2011年、31の「原則」に整理した。http://www.hurights.or.jp/japan/img/hrc1731framework.pdf
この国連原則のうち13条と17条を中心として、今年1月、欧州のバークレイズやドイツ銀行などの主要銀行10行で構成するThun Groupと米銀のCiti Bankが共同でDiscussion paper を公表した。
13条は、企業が責任を負うべき人権問題について、企業の直接の活動だけでなく、バリューチェーンを通じた取引先での問題の責任も負うことを求めている。一方、17条は、そうした責任を果たすために、企業に対して、人権への負の影響を特定し、防止し、軽減し、どう対処するかを示す「人権デュー・ディリジェンス」の実行を求めている。
これに対して、銀行団の解釈ペーパーは、① 銀行が負うべき責任を評価するため、銀行が顧客に商品やサービスを直接提供した程度に応じた（degree of directness）評価手法の導入②銀行が実施する人権デューデリジェンスをフォーカスする手段として、顧客向けの金融商品やサービス、アセットに応じた分析（Unit of analysis）ーーを示している。
銀行団の提言の趣旨は、取引先企業が関係する人権問題に対する銀行の責任の範囲は、金融商品やサービスの提供度合いに限定されるべき、との考えに基づくと解釈される。これに対して、環境・人権団体などが反発、環境金融NGOのBankTrackが国連人権高等弁務官事務所に、13条と17条の解釈と、「銀行部門の責任」についての見解を求めていた。
OHCHRが示した新たな解釈では、銀行の投融資活動が、取引先企業による人権問題に影響を及ぼす可能性を改めて確認したうえで、そうした事態が起きた際、銀行は取引先企業とともに、人権影響の改善に責任を負う場合があることを指摘している。
このうち銀行の投融資が直接、人権影響の問題とつながりがない場合は、銀行に影響解消のための責任は生じない、としている。銀行が影響解消の責任を共同負担する場合でも、負担しない場合でも、取引先企業で生じた人権問題の責任が企業から銀行にシフトするわけではない。
ただ、それらの場合も、銀行が企業の貸し手として、自発的に企業の問題解消に協力することは推奨される。また、銀行の企業への関与の度合いが人権問題にどう影響したか、あるいは銀行の行動が当該の人権問題を奨励したり、促進したりしていないか、なども情報開示の対象としている。
Thun groupらが指摘する「直接関与（directness）」の視点については、「『直接のリンク（Direct linkage）』の概念は、銀行の企業への投融資が直接の人権被害に限ろうとするものだが、実務的には銀行の企業向けの投融資の多くは『直接のリンク』とみなせる」と述べている。銀行と企業の包括的な取引関係についての銀行の責任を、人権問題においても認める解釈だ。
この問題は、たとえば銀行の取引先企業が武器製造をしている場合、武器使用による非人道的被害の責任を銀行が負うかどうか、という議論につながる。その場合、銀行が武器製造向けの資金を融資していない場合でも、当該企業と包括的な取引を続けており、同企業が武器製造に携わっていることを知りながら、投融資活動を続けると、非人道的行為の責任の一部を問われる可能性がある。少なくとも、当該企業向けの投融資が人権問題につながっているかどうかの把握と情報の開示が求められる。
Research Institute for Environmental Finance