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オランダ中央銀行DNB 金融機関が抱える気候リスクの高まりに警告。同時に、グリーン金融市場の急成長にも「バブルとグリーンウォッシュの懸念」を指摘(RIEF)

2017-10-10 16:48:42

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  オランダの中央銀行( De Nederlandsche Bank:DNB)は最新のレポートで、気候変動が金融システムに及ぼすリスクの高まりを指摘、金融監督に同リスク評価を取り入れ、気候変動ストレステストも実施する方針を明らかにした。一方で、グリーンボンドなどグリーン金融市場の急成長には、「バブルや、グリーンウォッシュの懸念もある」と懸念を示し、グリーボンドの基準緩和や自己資本比率規制でグリーンアセットの優遇を求める一部の主張に警戒を示した。

 

 DNBは「Waterproof? An exploration of climate-related risks for the Dutch financial sector」と題したレポートを公表した。金融システムに与える気候関連の課題を整理、その中で、中央銀行の金融機関に対する監督政策においても、気候リスクのプラス・マイナス両面のリスクの点検を重視していく方針を示した。

 

 中央銀行が気候変動のリスクを正面から取り上げるのは、金融行政金融安定理事会(FSB)が気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)報告を公表して以来、ドイツ、英国、フランス、イタリア、オーストラリアなどの中央銀行に次ぐ動きだ。日銀はまだ明確なスタンスは示していない。

 

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 DNBはすでに生命保険以外の保険業界(損害保険)を対象に、気候関連のストレステストを行っている。さらに、マクロ経済や信用秩序全体の観点から、エネルギーの低炭素化移行の影響に関するストレステストも試していることを明らかにした。

 

 レポートでは、金融機関に対して、気候変動の影響とカーボン中立経済への移行により、特定の資産が価値を低下させる可能性があることを、投資判断に盛り込むよう要請した。オランダでは銀行ローンの46%は不動産担保をつけているが、それらの担保不動産のエネルギー評価は同国のエネルギー格付では、D~Gの低レベルという。

 

 同国は2023年までにオフィスビルについては、少なくともCレベルの評価に高めるよう法的に義務付けている。したがって、現在の不動産担保のローンの半数近くが担保割れすることになる。

 

 DNBは金融機関の多くが、リスクマネジメントに担保不動産のエネルギー評価面を統合していない点を指摘、リスクマネジメントの改革を求めている。さらにリスクマネジメントにフォワードルッキング(先見性)な手法として、気候変動のシナリオ分析を導入するよう求めている。シナリオ分析は、TCFDの報告に盛り込まれた視点と共通する。

 

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 また金融機関が再エネ、省エネなどのグリーンプロジェクトへの資金供給を拡大するグリーンファイナンスを評価する一方で、「ブーム化するグリーンファイナンスは、バブル化する懸念と、グリーンウォッシュのリスクも抱えている」と警告も発した。バブル、ウォッシュを生み出すのは、グリーンプロジェクトを推進するあまり、規制が緩やかになり過ぎる点にあると、指摘した。

 

 パリ協定の発効以来、再生可能エネルギー投資は急増し、国際エネルギー機関(IEA)などの推計では、過去12年間で10倍以上に増大している。特にグリーンボンド市場は急拡大している。しかし、再エネ市場は技術進歩が著しく、投資資金が特定の技術に過剰に投下されるなどの資金の偏りが生じる懸念がある、と指摘している。

 

 DNBが懸念するのは、そうした新たな技術の台頭を評価による投融資資金の集中は、1990年代後半にブーム化したIT投資や、古くは1830年代の英国で起きた鉄道投資などに似ている、としている。IT投資ではブームの後、NASDAQが78%の下落するバーストを引き起こした。DNBは「直近の複数の金融機関からの聞き取り調査によると、グリーン投資競争は急激に激しさを増している」として、資金の需給バランスが崩れるリスクへの注意を喚起している。

 

 今年は1000億㌦以上の発行が見込まれるグリーンボンドについても、「グリーンボンドなどのグリーン金融商品は、低炭素社会への移行に際して、プラスの貢献をするとみられるが、しかしその影響については必ずしも明確ではない」と慎重な見方をしている。懸念を生むケースとして、スペインの石油企業Repsol社が製油所のエネルギー効率化のための資金調達でグリーンボンドを発行する事例を指摘。

 

 「このケースは、グリーン投資に際して、金融機関が将来の評判リスクを抱え込む可能性を示している。そうしたリスクを避けるには、グリーン投資、グリーンボンドに、もっと明確な基準が必要である」と述べている。グリーンボンド基準は、現在、民間金融機関が自主的基準とする「グリーンボンド原則(GBP)」が市場では国際基準と認められている。だが、義務ではないので、日本の環境省などは、それよりも緩いガイドラインを作成、地方自治体の発行を後押しする姿勢をみせている。

 

 DNBは、日本のガイドラインの是非には言及しなかったが、「(GBPより)もっと明確な基準」を求める姿勢を示すことで、各国が基準を緩める競争に走ることを牽制。金融監督当局として、信用力に疑義のある発行体にまでグリーンボンド発行を広げることへの懸念を示すことで、国際的に通用する共通基準の厳格化を求めた。

 

 また、欧州では、グリーン投資を推進する環境重視派が、金融機関の自己資本比率規制において、グリーン関連資産などのリスクウェイトを低下させるなどの優遇策を求める動きにも警戒を示した。「自己資本比率規制は社会的目的のために引き下げられるべきではないというのが、われわれの立場だ」と強調した。

 

https://www.dnb.nl/en/news/news-and-archive/dnbulletin-2017/dnb363837.jsp