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国際プロジェクトファイナンスのESG基準のエクエーター原則、3回目の見直しへ。パリ協定との整合性や先住民族などの人権対応を盛り込みへ。初の自主改定に(RIEF)

2017-11-02 00:53:38

EP3キャプチャ

 

 国際的なプロジェクトファイナンスを手掛ける主要金融機関で組織する「エクエーター原則協会(EPA)」は、現行の原則の見直し作業に入ると公表した。EPAの原則見直しは3回目となる。従来は、原則が準拠する国際金融公社(IFC)の基準改定に合わせたものだったが、今回は署名金融機関の独自の判断によるもので、パリ協定の温暖化目標達成と、先住民族の人権対応が焦点となる。環境NGOらの要請活動が国際金融団を動かした形だ。

 

 

   EPAは先月24~25日にブラジルのサンパウロで年次総会を開催した。総会では、署名機関の代表以外にも、アカデミズムやNGO、コンサルタントなどの外部機関が意見を表明する特別セッションが設けられた。そうした場で、2013年6月の前回の原則改定(EPⅢ)後の気候ファイナンスの進展などを議論した。


 EPAはこの間に、2015年のパリ協定署名、今年7月に金融安定理事会(FSB)の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)勧告のG20での採択など、気候ファイナンス関連で大きな展開があった、と評価。こうした政策的変化を踏まえて、原則を再度見直し、「EPⅣ」に改定する作業に入ることを決めたとしている。

 

 また見直し理由の主要課題として、温暖化対応に加えて、原則の適用範囲に人権(先住民族の権利擁護を含める)問題を入れることを考慮する、としている。これは、対象となる大規模プロジェクトの影響で先住民族の権利が無視される事例が各地で発生、原則の意義が問われていたためだ。

 

米銀JPモルガンチェースの店舗前で、化石燃料へのファイナンス停止を求めるNGO団体
米銀JPモルガンチェースの店舗前で、化石燃料へのファイナンス停止を求めるNGO団体

 

 たとえば、米国のトランプ政権下で、米先住民族の居留地を縦断する形で推進されたDakota Access Pipeline(DAPL)計画をはじめ、ホンジュラスのAgua Zarcaダム建設計画では、環境保護活動に従事していた環境保護活動家が暗殺されるなどの過激な弾圧が起きている。

 

 しかし、こうした人権無視のプロジェクトにも、エクエーター原則に署名した金融機関がファイナンスしている。DAPLには日本の3メガバンクをはじめ、多くの署名金融機関が資金提供している。そのため、環境NGOが非難しただけでなく、署名金融機関からも疑問符が投げかけられていた。今年5月には、フランスやオランダ、イタリアの10の署名機関が連名で「現行の原則は先住民族の権利擁護が十分でない」として、見直しを求める声明を出していた。http://rief-jp.org/ct6/72267

 

 このままでは、原則自体が形骸化しかねないとの懸念から、EPAは見直しに取り組むことになったとみられる。実際、過去2度の原則改定は、原則が準拠するIFCのパフォーマンス基準の改定に対応した受け身の改定だった。だが今回は、EPA自体の問題意識で改定に取り組むことになる。その意味で、EPAが自律的に持続可能性に向き合うプロセスに入ったとの見方もできる。

 

金融機関に人権配慮を求めるNGOのキャンペーン
金融機関に人権配慮を求めるNGOのキャンペーン

 

 改定作業は1年半の期間を想定している。近く運営理事会が、改定範囲等を整備をした後、作業のスタートを宣言する見通し。改定作業には外部のステークホルダーのコンサルテーションのプロセスも設けられる。同時に、今回の改定を機に、原則について定期的な評価システムの導入も検討するという。

 

 今回の原則見直し宣言は、多くの環境NGOらが詰め掛けた年次総会後、1週間で出された。NGOらから温暖化対応と先住民問題への明確な姿勢をとるよう求められたことへの対応であることは明白だ。原則の順守状況を監視し続けているオランダの環境NGOのBankTrackは「原則の改定なしには、同原則をグローバル基準として評価することは難しい」と指摘、今後の改定作業を引き続きウォッチしていく姿勢を打ち出している。