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スウェーデンの公的年金AP2、TCFDの気候変動シナリオ分析を用いて保有株の「2℃目標適合」を検証。今年は債券にも応用。広がる年金基金のシナリオ分析の活用(RIEF)

2018-02-23 22:28:13

AP2キャプチャ

 

  スウェーデンの公的年金AP2(Andra AP-fonden)は、気候関連財務情報タアスクフォース(TCFD)報告書が提案したシナリオ分析を、自らの投資資産の評価へ活用する作業を進めていることを明らかにした。年金の投資判断にシナリオ分析を取り入れるのは、スイスの民間年金等が政府主導事業で検証したケースはあるが、公的年金が本格的に取り組みを明らかにしたのは初めて。

 

 AP2はスウェーデンの5つある公的年金の一つ。運用資産額は3459億スウェーデンクローネ(SEK:約350億ユーロ=約4兆5500億円)。昨年6月に公表されたTCFD報告書は、すべての企業が抱える気候変動関連のリスクやオポチュニティの情報を、ガバナンス、戦略、リスク管理に活用し、そのための指標と目標を明示するよう求めている。

 

 ただ、これらの気候関連による重大な影響は中長期に現れるものが多い。そのタイミング、規模も不確か。TCFDはそうした不確実性を検証するためシナリオ分析の採用を提案し、資産保有機関、運用機関がそれらに基づく評価に取り組むことを求めた。

 

 AP2のシニア・サステナビリティ・アナリストの Christina Olivecrona氏は、すでに2017年秋以降、TCFDが提案したシナリオ分析のフレームワークに基づき、上場株の気候関連リスク、オポチュニティを検証していることを明らかにした。さらに、2018年度からは他の資産への応用を始めるという。

 


 AP2はこうした作業を、国際的な投資家グループである「Group on Climate Change (IIGCC)」のワーキンググループとして進めているとしたうえで、パリ協定の2℃達成目標を満たすうえで必要な手段、と位置付けている。「多様な気候シナリオ分析に基づく投資戦略や戦略的ポートフォリオの強靭性の評価の分析を発展させることが目的」としている。

 


 TCFDのシナリオ分析の実用性の検証は、昨年、スイスの年金、保険業界の3分の2に相当する79の機関投資家が、政府主導のシナリオテストのパイロット事業として、機関投資家の保有株、債券を評価したパイロット事業のケースがある。同事業では、現行の保有資産では2℃目標の達成は難しいく、4~6℃シナリオに近いとの結果となった。

 

 スイスの事例は、既存の年金、保険などの機関投資家の保有資産も同様に、2℃目標と整合しない投資先に資金を配分している可能性を示している。AP2の取り組みは、自らの資産の2℃シナリオへの整合性を検証するとともに、適合する投資資産への転換に踏み出す第一歩になる。AP2にとっての次の一歩は、すでに始まっているようだ。

 

 AP2の2017年の投資リターンは9.1%。総資産は3459億SEKの運用による純利益は288億SEK。

 

AP21キャプチャ