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「SDGsは投資家にとって、『万能の手段』ではない」。英大手資産運用機関のシュローダーが警告。グリーンウォッシュならぬ「SDGsウオッシュ」の懸念も。冷静な投資判断を要請(RIEF)

2018-03-14 18:32:15

SDGs3キャプチャ

 

 国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)を投資の世界に取り込む期待が高まっている。だが、「SDGsは重要だが、投資家のためにデザインされたものではない」「多くの目標は構造変化を求めるもので、投資家が直接、変化を主導することはできない」などの警鐘が発せられた。

 

 英大手資産運用会社のシュローダーズ(Schroders)がサステナブル投資の年次報告で指摘した。ESG、SDGs投資などをムード的にあおる安易な一部の動きに対する、プロの視線での注文といえる。レポートはSustainable Investment Report の2017年年次報告。

 

 シュローダーは英国を中心にグローバル機関投資家、個人投資家、金融機関などの資産6047億㌦(約63兆4000億円)の運用を担当している。ESG要因を投資評価に加味する活動も20年以上の実績を誇る。年次報告では、投資先企業・金融商品のサステナビリティの度合いを評価する分析を行なっており、その中で、SDGsを「投資家の視点」から取り上げた。

 

 シュローダーは、SDGsが目指すグローバルな開発目標を「グローバル社会、環境、経済が直面する最大のチャレンジを反映している。現実化できると、目標年の2030年には、貧困が終わり、平和な社会を築き、持続可能な資源の使用ができるように、地球の『形』が変わるだろう」と評価している。

 

SDGs1キャプチャ

 

 「しかし」と続ける。一部の年金基金がSDGs投資の拡大を宣言したり、SDGsに前向きな企業で構成したIndexなども登場しているが、レポートは「SDGsは投資フレームワークでも、企業戦略でもない」と指摘している。コミュニケーション材料としては豊富に市場に登場するが、投資家向けとしては、「誤解され、悪用されている(misappropriated and misused)」と断じた。

 

 その理由として、SDGsが掲げる17目標と169のゴールの多くが構造的改善によって達成されるものであり、投資家や企業は直接、そうした構造問題を解決できるメカニズムの中にはいない、と指摘している。さらに同社の分析では、169のゴールのうち企業レベルで合理的に評価できるものは15~20%であり、そのために現在使えるデータがあるのはわずか6~8%でしかない、としている。

 

 SDGsが正式にスタートした2016年1月以降、企業や資産運用の世界では、熱心に取り組む動きも広がっている。この点についてもレポートは冷静にみている。初期段階で企業のSDGs取り組みが進んだのは、企業がこれまで努力を重ねてきた企業の社会的責任(CSR)活動を取り込んでいるためという。

 

 しかし、CSRが目指してきた経済成長や気候対策などのように、企業活動の明確なゴールとして示してきたテーマが、SDGsでは企業単位で評価される形になっておらず、「CSRを歪めて取り込んでいる」と批判している。そうした扱いの結果、企業自身による広範囲なサステナビリティ課題への対応が、結果として影響を受ける可能性もあると言及している。

 

SDGs2キャプチャ

 

 そうした指摘に加えて、SDGsブームと似た行動パターンが過去にもあったとして、うわべだけの環境対策を実施する「グリーンウォッシュ現象」を提起している。SDGsの各目標が抱える構造的課題に政策的なメスを入れないで、企業の活動でそれらの解決が可能かのようにSDGsブームをあおる動きは、「SDGsウォッシュ」でしかない、というわけだ。こうした課題を指摘したうえで、レポートは、積極的な投資家として、政策当局者に対してグローバル課題に対する調整力と全体的な解決法の提示を求めている。

 

 シュローダーの分析では、企業のCSRレポートで重視されている11の目標のうちSDGsに取り込まれているのは、わずか5つだけ。それらは、働き易い労働(Decent Work)、経済成長(economic growth)、産業(Idustry)、革新(innvation)、インフラ(infurastructure)、責任ある消費と生産(responsible consumption and production)、ジェンダー格差是正(gender equality)という。

 

 レポートは、投資というものは単に投資家の投資判断だけで決まるのではなく、投資の影響を測ることのできるフレームワークが重要である、とも指摘する。そうしたフレームワークがあってはじめて、投資家は投資効果を見据えた投資判断ができるというわけだ。

http://www.schroders.com/en/sysglobalassets/digital/insights/2018/pdf/sustainable-investment-report/english-original/sustainable-investment-report-annual-2017.pdf

http://assetman.net/news/SDGs_not_a_silver_bullet_Schroders_11575/