国連環境計画金融イニシアティブ（UNEP FI）、欧米16の銀行とTCFD対応の協働作業「第二弾」。気候変動に伴う銀行の物理リスク対応のガイダンス公開（RIEF）
2018-07-21 23:37:55
国連環境計画（UNEP）金融イニシアティブ（FI）は、署名機関である大手16銀行と共同で、気候財務情報開示タスクフォース（TCFD）勧告に沿った銀行業の気候変動に伴う物理リスクと機会を、融資ポートフォリオにおいて評価・制御するための方法論を取り込んだガイダンスを公表した。移行リスク対応のガイダンスは先に公表しており、第2弾となる。
TCFD勧告は、気候変動に伴う移行リスクと物理リスクによる財務的な影響を重視している。UNEP FIはこうしたリスクに対して、銀行が融資の際にどう対処するかのポイントと手順を、銀行団と共同で整備した。ガイダンスのとりまとめは気候関連コンサルタントのAcclimatise Groupが担当した。
参加銀行は4月に公表した移行リスク等へのガイダンスづくりの参加行と同じ16行。米Citi、英バークレイズ、仏BNP Pariba、豪オーストラリア・ニュージーランド銀行（ANZ）など欧米の主要銀行が参加した。日本や中国の銀行は入っていない。
方法論の開発のため参加行らは、気候変動の影響を受けやすい産業として、農業、エネルギー、不動産の3部門を選んで、各部門で生じる影響を分析。借り手の収入、コスト、不動産業の場合は不動産価値などが気候変動で変化して、借り手への影響、および銀行の融資ポートフォリオの倒産確率（Probability of Default: PD）とLoan to Value（有利子負債総額/物件価格:LTV）に及ぼす影響を推計する必要性を示した。
これらの手法を使ったフォワードルッキングな評価によって、通常のストレステストが想定する2~3年先の変化を超えて長期影響の推計が可能になる、としている。
ガイダンスは、農業などの3部門を対象としたパイロット評価の結果、気候変動の増大による気温の上昇、豪雨の増大と豪雨パターンの変化とともに、異常気象現象の頻度の増大と影響の増加は、銀行が顧客企業と融資ポートフォリオに及ぼすリスクを評価する適格アプローチをとる必要性を示しているとしている。
物理リスクのうち、集中豪雨による洪水の発生や強烈な台風・暴風雨などの個々の異常気象現象は、その影響の明白さで人々の注目を集める。だが、河川の氾濫や台風被害などは特定の地域に集中する。銀行は、こうした出来事によって借り手企業等が影響を受ける確率を評価する能力を求められる。
もっと深刻なのは、気候変動の影響が継続的に増大していく場合で、この場合の影響は、借り手全体の金融パフォーマンスが次第に劣化して点にある。こうした融資ポートフォリオ全体の劣化を防ぐことは、同時に、借り手企業が講じる気候変動への適応策を支援する機会の増大につながる、としている。
金融機関は、気候変動が経済全体、借り手全体に及ぼす現象と影響を理解し、それらを金融のリスクと機会として、いかに評価していくかが、金融機関自身の気候変動への耐久性を強化するための基本、と指摘している。
今回のガイダンスは、物理リスク評価の方法論を整理する最初のステップであり、報告書はさらなるステップが必要と指摘している。必要性が指摘されたのは、地域ごとの借り手の影響データ、銀行の貸出資産と融資先産業に当てはめることのできる気候モデルとデータセットの改良、気候変動をマクロ経済的な影響に統合すること、必要な適応ファイナンスの範囲の測定、気候関連の保険商品・プレミアム・市場への理解、などを指摘している。
4月に公表した銀行の移行リスク評価のガイダンスは、移行リスクを評価するため、3つの移行リスクモジュールで示している。①移行シナリオ（Transition scenarios）②ポートフォリオ影響評価（Portfolio impact assessment）③借り手段階の比較分析（Borrower-level Calibration）である。手順は、①に基づき、②と③への影響を評価する。②はトップダウンアプローチで、③のボトムアップアプローチの情報も踏まえて評価する、としている。http://rief-jp.org/ct6/78947?ctid=66
http://www.unepfi.org/wordpress/wp-content/uploads/2018/07/NAVIGATING-A-NEW-CLIMATE.pdf
Research Institute for Environmental Finance