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SASB(米サステナブル会計基準審議会)の「非財務情報開示基準」を点検する⇒その⑤「安全で手ごろな健康事業を」。ヘルスケア産業。医薬品大手からドラッグストアまで6業種(RIEF)

2018-11-19 08:00:06

SASBmedicalキャプチャ

 

  SASBの「非財務情報開示基準」の5番目の産業は、健康管理(Healthcare)セクターだ。このセクターに属する大手企業はグローバル・ブランドでの競争を展開している。一方で、ドラッグハウスや健康グッズなど、日常生活に密接な産業でもある。健康管理を基本とするだけに、同セクターの特性は、安全面が第一。それに加えて製品の入手可能性等の経済性の確保が求められる。

 

 同セクターの対象業種は、バイオテクノロジー・医薬品(Biotechnology & Pharmaceuticals)、医療機器・販売(Health Care Delivery)、ヘルスケア販売業(Health Care Distributors)、マネージドケア(管理医療:Managed Care)、薬局(Drug Retailers)の6業種。

 

 まず、最初に取り上げる「バイオテクノロジー・医薬品(Biotechnology & Pharmaceuticals」業は、膨大な研究開発費をかけて新規医薬品を開発、そのブランドネームとジェネリック薬による市場展開を中心とするグローバルビジネスだ。そのため、開発医薬品の安全性の確認とともに、薬の入手可能性とのバランスが求められる。

 

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 同業種の非財務分野の開示項目は、大きく3分野に分かれる。最初の安全性分野では、(1)臨床試験参加者の安全性(2)薬の安全性(3)偽造医薬品対策、の3項目の開示を求めている。次いで、Affordability(入手可能性)分野では、(4)薬へのアクセス(5)入手可能性と手ごろな価格、の2項目。

 

 3つ目は、同業種の経営姿勢を問う分野で、(6)倫理的なマーケティング(7)従業員の雇用対応(8)サプライチェーン・マネジメント(9)経営倫理、である。経営への倫理的な配慮はすべての業種で求められるが、同業種の場合、人の健康にかかわるビジネスだけに、より詳細な対応が求められるわけだ。

 

 順を追ってみよう。(1)は、新薬の開発時の安全性問題だ。開示項目は3つ。まず、薬の臨床は人間自体が治験対象になるため、臨床体制の品質レベルと治験者の安全性対応の開示を求めている。次いで、日本の厚生労働省に相当する米食品医薬品局(FDA)が実施する臨床管理関連の検査の回数と、医薬品安全性監視( Pharmacovigilance)の回数の点検。3つ目は臨床治験の場となる多くの途上国での訴訟等で発生した総損失額の開示だ。

 

 薬の服用時の安全性問題は、世界中での課題だ。開示要請する項目は、(1)FDAのデータベース用の安全警告にリストアップされた医薬品のリスト(2)FDAの緊急イベントレポーティングシステム(AERS)に報告された製品に関連する死亡者数(3)リコール(回収)件数(4)回収、再利用、廃棄等の諸部を受けた製品の全総量(5)FDAから強制措置を受けた回数、の5項目だ。

 

 安全性分野の3つ目の「偽造医薬品」対応では、3項目の開示内容を求めている。①トレーサービリティー②顧客等への警告プロセスの整備③偽造医薬品の摘発のためにとった行動の開示。偽造医薬品で健康を害したり、経済的負担を増したりするリスクがあることから、偽造されないような対応を求められる。

 

 このうち、医薬品のトレーサービリティーをサプライチェーンを通じて確保するために用いる方法論、技術の記載を求めている。単に「トレーサービリティー宣言」をするだけでは不十分で、効果的な方法かどうか、さらにその結果についても開示が求められるわけだ。


 もう一つの課題であるAffordability(入手可能性)分野でも、価格提示を求めるだけでなく、優先的に治療が求められる疾患や、治療支援が必要な途上国などの優先国向けの機器等については、対応などについての記述を求めている。医薬品会社の「責務」の問いかけだ。

 

ドラッグストアの主要開示項目
ドラッグストアの主要開示項目

 

 グローバルな医薬品メーカーの対極にあるのが、街の「薬局(Drug Retailers)」である。ただ、最近は、日本でも多くの薬局が大手のフランチャイズか薬局チェーンに代わっている。伝統的な個人向け医薬品の処方のほか、日常薬の販売、薬以外の日常・家庭用品を取りそろえ、消費者に極めて身近な存在だ。

 

 薬局は処方箋、店頭販売の両方で、個人の診察情報や健康管理情報に接するため、データの安全性とプライバシー管理の適切性が求められる。SASBが求める非財務要因の開示分野は5項目。このうち薬局は、個人の処方箋などや医薬品の購買歴を通じて、個人情報に接することから、「データの安全管理とプライバシー」分野が開示の柱だ。

 

 そのための開示項目は(1)顧客の健康情報やその他の個人情報を保護するための政策と実際の対策手法の記述(2)データ漏洩等の事故件数、顧客情報のうち、個人識別情報、健康管理情報等の割合(3)顧客情報漏洩等で法的訴訟等になって生じた経済的損失額――の開示を求めている。

 

 最近の調査では、2016年、薬物の過剰摂取で年間6万3632人が死亡、2015年の各国死亡率調査では、薬物の過剰摂取を原因とする死亡率は米国が最も高かった。男性は10万人当たり35人が薬物の過剰摂取で死亡。女性は同20人という。

 

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 「医療機器・供給(Medical Equipment & Supplies)」業は、生活習慣病の拡大、高齢化の進展等によって、成長を続けている。病院、診察所、研究機関等の健康関連市場が対象であり、特定の疾患・検査等のために開発するという特徴から、Affordability(入手可能性)が求められる。

 

  開示項目は、その①Affordability & Pricingをはじめ、②製品の安全性③エシカル・マーケティング④製品デザイン&ライフサイクルマネジメント⑤サプライチェーンマネジメント⑥経営倫理、の6分野としている。

 

 Affordabilityでは「入手可能性」あるいは「手ごろさ」を測る尺度として、消費者物価指数(米国)に対する価格の純増(全医療機器製品対象)分の加重平均比率の開示を求めている。また個々の製品の価格情報をどのように顧客(病院等)や代理店に伝えているかについても記述を求めている。

                     (藤井良広)

https://www.sasb.org/wp-content/uploads/2018/11/Biotechnology_Pharmaceuticals_Standard_2018.pdf

https://www.sasb.org/wp-content/uploads/2018/11/Medical_Equipment_Supplies_Standard_2018.pdf

https://www.sasb.org/wp-content/uploads/2018/11/Medical_Equipment_Supplies_Standard_2018.pdf

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https://www.sasb.org/wp-content/uploads/2018/11/Managed_Care_Standard_2018.pdf

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