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欧州中央銀行による量的緩和策の社債購入プログラム(CSPP)、全体の6割強が高カーボン集中企業から購入。金融政策と温暖化政策の不一致露呈。欧州NGOとシンクタンクが報告(RIEF)

2019-04-08 08:30:18

ECB3キャプチャ

 

 欧州中央銀行(ECB)の量的緩和政策が、温暖化対策と逆行している、と指摘する報告が出た。量的緩和政策のうち民間企業の社債購入プログラム(CSPP)に投じた1100億ユーロのうち6割以上が、化石燃料採掘等の高カーボン集中企業への資金供給につながったという。報告はECBに対して、金融政策にカーボン評価を盛り込むとともに、ECB自体が公的なESG格付機関を設立するよう求めている。

 

 調査は、ブリュッセル拠点のNGO「Positive Money Europe」と仏シンクタンク「Veblen Instituten」の共同調査。 ECBは欧州経済のテコ入れのため、2016年から2018年まで民間社債を購入する量的緩和策としてCSPP(Corporate Sector Purchase Programme)を実施した。

 

 CSPP政策は、ユーロシステムを構成する独ブンデスバンク、フランス中央銀行、スペイン中央銀行、イタリア中央銀行、ベルギー中央銀行、フィンランド中央銀行の6中銀を通じて行われてきた。

 

左側が各年の分野別のCSPP購入額割合。右は残存保有分の割合
左側が各年の分野別のCSPP購入額割合。右は残存保有分の割合

 

 各年の社債購入額をみると、全体の63%が①化石燃料採掘販売②自動車産業③エネルギー集中産業④発電事業、の4産業の企業発行の社債に集中していたという。一方、気候変動等に貢献する企業の社債購入は限定的だった。また、ECB全体の投資ポートフォリオに占めるグリーンボンド保有比率は7%でしかなかった。

 

 高カーボン集中企業の社債購入は、手掛けた各中銀によって、特徴がある。化石燃料採掘販売事業の資金供給は、イタリア中銀と、スペイン中銀が他の中銀より多く、自動車産業からは独ブンデスバンクが最も多かった。それぞれの国内産業構造を反映した形だ。

 

 一方、フランス銀行は4業種ともほぼ同レベルだった。ベルギー中銀とフィンランド中銀はいずれも他の中銀より、高カーボン集中企業からの社債購入額は少なかったという。

 

CSPPで購入した産業別社債のウエイト
CSPPで購入した産業別社債のウエイト

 

 購入社債全体の残存期間をみると、化石燃料関連企業の償還期間は、グリーンボンドなどよりも長期間の保有となっている。ECBの資産全体としてはグリーン化の兆候はうかがえない、という。

 

 報告書は、量的緩和の金融政策とグリーンファイナンスのミスマッチを解消するため、社債評価をする格付機関の信用格付にカーボン評価を盛り込むことを求めている。民間格付機関が十分に対応できない場合は、ECB自身が、公的なESG格付機関を2020年1月までに設立するよう提言している。

 

 ECBの量的緩和策で供給した資金額は2兆6000億ユーロ(約325兆円)に上る。従って、CSPPによる資金供給額は全体に比べると、大きな割合を占めるわけではない。しかし、ECBの量的緩和策が気候変動評価を考慮していないことは、昨年も欧州議会等で批判されている。

 

 ECBは昨年末、こうした批判を受けて、欧州以外で発行された非金融機関発行のグリーンボンドの20%を投資対象としたと公表した。しかし、本来の金融政策において、高カーボン集中企業を資金面から支援し続けてきたことは、ECBの投資戦略全体の不整合性を露呈したともいえる。

 

 報告書をまとめたVeblenのWojtek Kalinowski氏は「ECBは従来型の持続可能ではない産業構造を再生産するよりも、金融市場全体を持続可能な方向に誘導するよう積極的に行動するべきだ。もし狭義の中立性に固執するようならば、ECBは高カーボン集中企業を今後も、支援し続けることになってしまう」と批判している。