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非財務情報開示の7つの共通原則を整理。IIRC、GRIなどの情報開示フレームワーク機関プラットフォーム(CRD)が報告書。非財務フレームワークの統合には触れず(RIEF)

2019-07-05 17:24:41

CRD1キャプチャ

 

 国際統合報告評議会(IIRC)やサステナブル会計基準機構(SASB)など7つの企業情報の基準設定機関で組織する「Corporate Reporting Dialogue(CRD)」は、各レポーティングの透明性と説明責任の価値を理解するうえでの共通の重要7原則をまとめた。

 

  CRDは、2014年にIIRCが主導する形で、国際会計基準審議会(IASB)やSASB、グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)などとともに、各情報開示フレームワークの基準、ルール、用語等の共通化を目指して設立されしたプラットフォームである。

 

 メンバーは、IIRC、SASB、CDP、IASB、グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)、Climate Disclosure Standard Board(CDSB),国際標準化機構(ISO)の7機関。オブザーバーに米連邦会計基準機構(FASB)が入っている。

 

 CRD4キャプチャ

 

 企業の情報開示については、従来は財務会計中心で、IASBやFASB中心の開示ルール化が進んできた。しかし、ESG等の非財務情報開示へのニーズが高まる中で、IIRCやGRI、SASBなどの各団体が独自の視点で開示フレームワークを設定、非財務情報開示の方向性が高まる一方で、利用する側の企業や投資家等からは、各フレームワークの概念、ルール、用語等の不一致への不満も出ていた。

 

 こうしたことから、国際的な影響力を持つ主要な基準機関の間での協力と協調、適合化を進める作業の場としてCRDが機能してきた。今回、公表されたのは、「財務・非財務報告フレームワークが共有する、透明性と説明責任についての共通の基本原則(Financial and non-financial reporting frameworks share common founding principles of transparency and accountability)」と題するポジションンペーパー。

 

 それによると、CRD参加機関は、企業の情報開示において、透明性と説明責任が、ガバナナスメカニズムとステークホルダーの権限付与のレベルを高めるうえで、重要であるとの認識で一致。透明性と説明責任をの価値を高めるための7つの共通の基本原則をまとめた。

 

 基本原則は、①マテリアリティ(Materiality: 重要性)②完全性(Completeness)③正確性(Accuracy)④バランス(Balance)⑤Clarity(明確性)⑥比較可能性(Comparability)⑦信頼性(Riliability)、となっている。

 

 CRD3キャプチャ

 

 第一のマテリアリティは、その情報の有無がユーザーの判断に異なった影響を与える可能性のあるもの、と定義している。マテリアリティは財務会計の基本原則の一つで、非財務情報の場合、その評価・計測が課題となる。第二の完全性は、当該企業が認識するすべてのマテリアルな情報は開示されるべき、との原則だ。

 

 第三の正確性は、開示に際して重要な(マテリアルな)エラーを伴わないこと。第四のバランス(中立性)は、情報に偏り(バイアス)がないこと。第五の明確性は、開示情報が利用者に理解され易く、また情報にアクセスし易いこと。

 

 第六の比較可能性(一貫性を含む)は、情報は年次などの同じベースで同じ方法論を用いて開示されるべきで、かつ、他の機関との比較が可能な情報開示であるべきとしている。第七は、企業の情報収集や内部でのコントロールへの信頼性の確保等を意味する。

 

 報告書は、各情報開示フレームワーク機関は、企業による情報開示の準備や開示情報に、これらの7つの基本原則が含まれるべきだとの「共通の期待」を有する、と指摘している。

 

 今後の課題の一つとして、用語(Terminology)の共通化の議論をあげている。今回整理した7原則のいくつかでも、概念は共通だが、用語は各開示フレームワークによって異なる事例が少なくない。例えば、AccuracyはGRIの用語だが、「Fair」(SASB) や「Free from error」(IASB、CDSB)となる。Balance(GRI)も、「Reliability/completeness」(IIRC)、「Neutral」(SASB、IASB、CDSB)といった具合だ。

 

主要な情報開示フレームワークでの用語の違い
主要な情報開示フレームワークでの用語の違い

 

 財務報告の場合は国際基準のIASBと、伝統的な米国のFASBが並立しつつ、両者の間で共通化作業が続けられている。同様に、非財務報告フレームワークの場合も、現状の主要基準だけで6つもあることを踏まえると、フレームワーク自体の統合・共通化の議論が必要だ。ただ、今回はそうした統合化については言及していない。

 

 フレームワークの運営機関同士では、そうした議論はしにくいためと思われる。だが、情報開示の透明性と説明責任を負う企業、さらにそうした情報開示を元に投資判断を下す投資家の立場に立てば、情報開示の軸になる非財務情報フレームワークの統合化は最大課題でもある。非財務情報を判断する基準・ルールの統合によってルールの透明性を高めることは、フレームワーク自体の説明責任にもつながるはずだ。CRDの「次なるペーパー」に期待したい。

                                              (藤井良広)

https://corporatereportingdialogue.com/wp-content/uploads/2019/07/Understanding-the-value-of-transparency-and-accountability-paper-1.pdf