HOME |年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)、運用委託機関の報酬インセンティブ制度を調査。ショートターミズム助長はないが、日本系運用受託機関は「報酬と戦略」が連動せず(RIEF) |

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)、運用委託機関の報酬インセンティブ制度を調査。ショートターミズム助長はないが、日本系運用受託機関は「報酬と戦略」が連動せず(RIEF)

2019-07-09 08:00:16

GPIFキャプチャ

 

 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、運用受託機関の役職員報酬体系(インセンティブ構造)についての調査結果を公表した。その結果、ショートターミズムを助長するような報酬体系はほとんどなかったが、日本系の運用受託機関の報酬は、グループの銀行等に連動する例が多く、報酬が戦略的に活用されていない、としている。GPIFが力を入れているESGエンゲージメントにも報酬インセンティブが定められていない機関が多かった。

 

 調査は、マーシュ・アンド・マクレナン・カンパニーズ (MMC)グループのマーサー・ジャパンが担当した。

 

 GPIFはここ数年間、国内外の株式市場の上昇等の環境要因等の影響で、 運用実績は年金財政計算上の前提を大きく上回り、順調に推移している。一方で、全資産の約2割を占めるアクティブ運用では、2014 年~2016年度の3年間で、目標超過収益率を達成したファンドは少数にとどまっている。

 

GPIF145キャプチャ

 

 このためGPIFでは2018年度に、運用受託機関に対して全面的に実績連動報酬制度を導入し、 alignment of interest を重視する姿勢をとっている。今回の調査はそうした運用受託機関の役職員報酬体系が、ショートターミズム(目先の利益を追う)を助長することにつながっていないかを検証するために実施した。

 

 調査対象は、オルタナティブを除く国内外株式・債券の全運用受託機関の最高経営責任者、 最高投資責任者、戦略運用責任者、それぞれの報酬体系の状況を調べた。調査は質問票、インタビューを使った。

 

 その結果、長期的なリターンの向上に資する、という観点に関しては、欧州で経営の健全性の観点からのガイドライン制定等の動きもあり、過度に大きく個人賞与に反映するような仕組みはほとんどみられなかった、としている。特に進んでいる運用受託機関では、それぞれの組織の歴史や特性を踏まえた工夫を行っている、と指摘している。

 

報酬体系の全体像。㊤が海外の委託機関。㊦が日本の委託機関
報酬体系の全体像。㊤が海外の委託機関。㊦が日本の委託機関

 

 調査では、GPIFの運用委託機関全体を、先進的(Leading)、平均(Average)、出遅れ(lagging)の3区分で評価した。そのうち、英米などの国際分野の運用受託機関の場合、報酬を戦略的に活用している機関は36機関中、過半の20機関だが、日本の機関の場合、9機関中7機関が「出遅れ」評価に分類された。

 

 報酬体系のインセンティブ構造も、国際金融機関の独立系では、プロフィットシェアリング(利益分配型賞与)/自社株保有、賞与をKPIとして活用している事例が多く見られた。銀行・証券・保険会社等の子会社の運用機関(21社)でも、CEO/CIOの場合は、親会社の報酬体系の範囲内のケースも多いが、運用会社としての独自性 (運用成績重視、市場環境/長期 運用成績変動の中での中長期成績 の重視等)をある程度有している、としている。

 

 これに対して、日本勢は対象の9機関がすべて銀行・証券・保険会社等の子会社で、大半が親会社・グループ会社の報酬の仕組み・水準の範囲内になっていた。ただ、日本勢の場合、長期的な人材育成・チーム運用を重視している利点もある、としている。

 

各地域の報酬体系の違い
各地域の報酬体系の違い

 

 GPIFは投資に際して、ESGインテグレーションおよび重大なESG課題について積極的にエンゲージメントの実施を運用受託機関に求めている。今回の調査では、それらの機関の報酬体系が、GPIFの要請に応じた形で整理されているところは極めて少数だったという。

 

https://www.gpif.go.jp/investment/research_incentive_scheme_jp.pdf