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スタンダードチャータード・シンガポール銀行、アジア初の「Sustainable Deposit(持続可能な預金)」提供。SDGs等に必要な資金を直接個人・企業から調達。アジア圏内で循環へ(RIEF)

2019-10-12 22:52:18

S&C2キャプチャ

 

 英スタンダードチャータード銀行グループのスタンダードチャータード・シンガポールは、企業と個人両方向けに、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を支援に活用する「Sustainable Deposit(持続可能な預金)」の提供を開始する。受け入れた預金は、アジアやアフリカ、中東等の途上国でのSDGs事業を支援する金融活動に充当するという。

 

 スタンダードチャータード銀行は今年5月、欧州市場で同様の「Sustainable Deposit」の取り扱いを始め、預金者から好評だったことから、今回アジアでも拡大することとした。

 

S&C1キャプチャ

 

 新預金の資金使途先として、同行はESG評価会社のSustainalyticsの協力を得て、「Green and Sustainable Product Framework」を設定。環境・社会に影響を及ぼす5産業の最低基準を設定した。①採掘産業(石油・ガス、鉱業・金属業)②発電事業(化石燃料発電、原発、水力を含む再生可能発電)③農業産業(漁業、タバコ、森林、パーム油)④インフラ・運輸産業⑤化学・製造業だ。

 

 同基準を受けて、預金の資金使途先から除外されるのは、石油・ガス産業では、 新規および既存のタールサンド掘削・製造事業、北極圏での掘削・開発事業。発電事業では、すべての新規の石炭火力発電と同増設計画。農業では、漁業のサメのひれ漁獲やその取引、底引き網漁業等。https://av.sc.com/corp-en/others/green-sustainable-product-framework.pdf

 

 同時に、ポジティブな資金使途として、SDGsの17目標に資する持続可能な事業への投融資が期待される。預金者は自分の預金の使途が、環境・社会に負荷を与えず、SDGs活動を支えることで、自らもサステナブルな活動に参加できることになる。

 

S&C3キャプチャ

 

 アジア地域では、気候変動による影響のほか、貧富の格差の拡大に伴う金融的排除、健康・医療・教育等へのアクセス不足等、SDGsが解決の対象としている課題が山積している。シンガポールはそうしたアジアの中心に位置する。スタンダードチャータードはこうした環境下で、アジア地域の資金をアジアの社会的課題の解決のために循環させる役割を果たしたい、としている。

 

 国連の推計では、SDGsの課題解決のために必要な資金と実際の資金とのギャップは、途上国だけで年間2兆5000億㌦(約270兆円)の開きがある。ギャップを埋めるには、各国の公的資金だけでは不足で、多様な資金源の活用、特に民間資金の活用が求められている。

 

 スタンダードチャータード・シンガポールのCEO、Patrick Lee氏は「シンガポールは主要な国際金融センターの一つであり、アジアでの資金移動の重要なハブでもある。われわれは、過去160年もの間、この地域で、ローカル・地域のネットワークを使って、資金を最も必要としている地域、人々につないできた」と指摘。新預金の供給が同銀行の伝統を踏まえたものである点を強調している。

 

アジアの主要国でのサステナブルファイナンスへの対応度合い(日本を除く)
アジアの主要国でのサステナブルファイナンスへの対応度合い(日本を除く)

 

 シンガポールだけでなく、アジアの金融機関では資金使途を再生可能エネルギー事業への融資に充当する「グリーン預金」は次第に普及している。しかし、資金使途対象をESGに拡大したサステナビリティ課題やSDGsにリンクさせた預金は、アジアでは同行が初めての提供となる。

 

 親会社のスタンダードチャータードの2019年のSustainable Investing Reviewによると、富裕層の「high net-worth (HNW) 投資家」の68%は、単に経済的リターンの追求よりも、サステナブル投資を通じて、より良い未来を築くことへの貢献を望んでいるという。https://av.sc.com/corp-en/content/docs/asia-sustainable-investing-review-2019.pdf

 

 同調査では、シンガポールは、サステナブル投資を知っているとするHNW投資家の比率がアジアで最高割合の43%に達する。同比率は年々増大しており、今回の預金はそうした個人、法人両方の投資家層をターゲットにしている。

 

 預金が資金調達の主要手段でもある日本の金融機関も、こうしたグリーン&サステナブル預金の開発・提供が求められる。以前から地銀等では「エコ預金」等が設定されている。ただ、日本では金融当局の指導で、預金の資金使途を特定の融資事業等にあらかじめ約束することは、「導入預金」に類するとの議論があり、現状では認められていない。

 

 既存の「エコ預金」も、預金で集めた資金をエコ事業に融資するのではなく、金融機関は金融当局の指導に抵触しないよう、自らの収益の一部をNGOや地域の環境活動に寄付するという仕組みが多い。しかし、欧米やシンガポールでは可能なのに、日本では資金使途制約が生じるというのは、グローバル金融市場において、首を傾げざるを得ない。


https://www.webwire.com/ViewPressRel.asp?aId=248282

https://av.sc.com/corp-en/others/green-sustainable-product-framework.pdf