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米証券取引委員会(SEC)、ESG投資の「妥当性」調査を展開。投資パフォーマンスの成果や評価モデルの検証等。「ESGウォッシュ(ESGもどき)」への懸念も(各紙)

2019-12-25 00:04:12

SEC11キャプチャ

 

   米証券取引委員会(SEC)がESG投資の調査を強化していることがわかった。SECは昨年以来、ESGファンド等の投資マネジャーらを対象にして、調査レターを送付。顧客に推奨した企業株のリストや、ESG評価に使うモデル、投資パフォーマンスなどを問いただしているという。ESG投資が本当に、投資先企業のサステナビリティに資しているか、「ESGウォッシュ(ESGもどき)」になっていないか、と目を凝らし始めたようだ。

 

 米ウォールストリートジャーナル(WSJ)紙が報じた。ESG投資はグローバルベースで急拡大している。国際団体のGSIA(Global Sustainable Investment Alliance)の集計では、世界全体でのESG投資は、2016年から2018年までの2年間で34%増え、30兆6830億㌦(約3344兆円)に達したとされる。日本もは4740億㌦(2016年)から約4.6倍の2兆1800億㌦(18年)へ急膨張したという。

 

 SECの調査レターは、金融機関への監督部局ではなく、「コンプライアンス検査調査部局(OCIE)」からのものとみられる。問い合わせ内容は、投資マネジャーが顧客に推奨する株の一覧を求めるとともに、運用会社がESG評価を高いと判断する評価モデルの提示、実際のESG投資でベストとワーストの投資パフォーマンスとなった銘柄の開示等という。

 

SEC113キャプチャ

 

  同部局の検査官は監督部局のように、調査に基づいて直接、罰金や罰則を科す権限はない。だが、調査結果から法律違反等を発見すると、監督部局に強制調査を依頼する手順をとる。

 

 この「SECからの手紙」は、主にESGファンドに多額の資金を投入している投資マネジャーや資産運用会社を選んで送付されているという。特に、気候変動や企業の多様性等のESG課題の解決に取り組む戦略を打ち出す企業に投資することを、投資家・顧客に売り込んでいるファンド等が多いようだ。

 

 金融市場でも、これらのESGファンドの急成長ぶりに首を傾げる向きも少なくない。たとえば、投資ファンドは(ESGなどを評価せず)投資リターンに専念すべきだという反論や、果たして本当に、ESG原則に即した投資になっているのか、という疑問の声もある。

 

 投資手法として、どの企業が社会的責任を果たしているかを決定する投資ファンドのクライテリアや、そのクライテリアに適用する方法論(methodology)が果たして妥当なのかという疑問も多い。多くのファンドが投資先のESG取り組みをスコアリングして、点数の高い銘柄を選び出す手法(ESGスコアリング)を活用する。だが、同じ投資先企業の評価でも、ファンドごとにスコアがバラバラで、投資家が迷うケースも少なくない。

 

GSIAの隔年調査から
GSIAの隔年調査から

 

 これまでにも、市場関係者の間からは、SECに対して、ESG評価のクライテリアや共通基準を、SECが設定することを求める複数の要請が提出されている。

 

 GSIAの隔年調査のデータにも疑問の声がある。各国によってESG評価手法の重みが異なっているのに、それらをひとまとめにして公表する「乱暴な」手法の問題だ。特に、日本の市場の評価は欧米市場と異なる点が多い。

 

 日本のESG市場が18年には2年前よりも4.6倍に膨張したとされる点は、日本ではESG投資のカテゴリーのうち、資産運用会社や投資マネジャーらが、取り組み易い「エンゲージメント活動」のウエイトが大きいことが要因とみられている。

 

 同活動の主な内容は、株式保有先の経営陣と対話をしたり、株主総会で議決権行使をするなどで、これらの活動をしたファンドや運用を、すべてESG投資活動と位置付けている。だが、議決権行使をして経営陣の提案にESG上の理由で反対票を投じても、E否決できない場合が大半。その場合でも、当該ファンドはESG活動をしたとして、ESG投資額にカウントされるている。

 

 「ESG活動の効果」が見えなくても、「ESG活動をした」として、同市場の規模を実態以上に大きく見せる形になっている、と指摘されている。

 

 市場関係者の間にも疑心暗鬼が漂う。WSJは、米法律事務所のDavis Polk & Wardwell LLPの共同代表のBetty Moy Huber氏のコメントを紹介している。

 

 「ESG市場はまだまだ新しい。SECは『ちょっと待って。あなた方はどうやってESG商品を選んでいるのか』とか、あるいは『わかった上で化石燃料企業を投資対象から除外しているのか、彼らのESGパフォーマンスのレベルはわかっているのか』などと聞いている」と指摘。市場の基本的な部分にあいまいさが漂うことへのSECの懸念を代弁している。

 

https://www.wsj.com/articles/esg-funds-draw-sec-scrutiny-11576492201