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ラオス・ナムトゥン2ダム>社会的コストを尻目に前進する世銀支援のダム事業(メコン・ウォッチ)

2011-04-04 21:36:12

2010年12月9日、ラオスの中部カムアン県で、世界銀行やアジア開発銀行(ADB)の支援を得て進められてきたナムトゥン2ダムの落成式が行われました。落成式は、タイのアピシット首相が出席するなど、華々しく行われ、世銀がメコン圏で10年ぶりに支援する大規模ダムがいよいよ名実ともに動き出しました。

大規模ダム開発による環境・社会被害に対する批判を浴び、ダム開発への関与から遠ざかっていた世銀は、民間の参与による「貧困削減モデル」を打ち出すことで、新たなダム支援に乗り出しました。しかし、その裏で、ダムの影響に翻弄されている多数の人々がいます。ラオスでの情報公開も進んでおらず、このままでは歳入が計画通り貧困削減分野に使われるかも疑問です。

そうしたナムトゥン2事業に対する市民社会の懸念を伝えるIPS通信社の報道をお伝えします。

世界銀行支援のダム事業、社会的コストを尻目に前進


http://ipsnews.net/news.asp?idnews=53792
Marwaan Macan-Markar記者

2010年12月7日バンコク(IPS)- 世界銀行は、ラオスで最大の水力発電事業が落成したことで大規模なダムビジネスへの関与を再開し、おなじみの対戦相手である環境団体や草の根の活動家から厳しい視線を注がれている。

この内陸国でナムトゥン2(NT2)水力発電事業の落成式典が挙行された12月9日の夜、NGO関係者らの連合体は、NT2ダム建設に伴い浮上している社会・環境問題を指摘した要請書を、世界銀行のロバート・ゼーリック総裁に渡した。

「ダム事業によって移転を強いられた6200人以上の少数民族は、水田や焼き畑、森林や放牧地などの自然資源の利用手段を失ってから3年を経た今でも、持続可能な生計手段の確保に苦闘している」、と34の市民団体と18カ国の個人によって署名された要請書で指摘している。

NGO関係者らはさらに、河川の生態系の変化によるリスクに直面している川沿いの71の村と後背地の101の村に暮らす11万人以上の人びとの窮状にも注意を喚起している。「下流域への影響には、洪水、漁業被害、河岸浸食、河岸の野菜畑の浸水、河川の生態系の変化、水質悪化がある」、と要請書で明らかにした。

ゼーリック総裁への要請書(フィリピンのマニラ市にあるアジア開発銀行の黒田東彦総裁宛にも送られているが)の提出は、フランス、タイ、ラオスの電力公社が株主となっているナムトゥン2電力会社に対し、世界銀行がリスク保証の供与を決定したことに端を発する。

東南アジア最貧国のひとつであるラオスで15億USドル規模の民間事業を保証する、という世界銀行の決定は、長期にわたる空白期間を経た後の世界銀行の大規模ダム産業への復帰を意味した。2000年の世界ダム委員会の報告書(訳注)は、世界銀行が途上国で大規模ダム建設を推し進めた結果、数々の社会的・環境的災難を招いたと批判しており、世界銀行はこの批判をひとつの契機とした。

実際、世界銀行はNT2ダム事業を、持続可能な水力発電事業・企業を支援する能力、という自らの新しい考え方の見本として宣伝した。

「ナムトゥン2ダム事業は、水力発電がいかに国の発展を経済、環境、社会に持続可能なかたちで支援できるかを示す代表例なのです」、と世界銀行の三輪桂子ラオス・カントリー・マネージャーは述べる。「水力発電および河川インフラへの関与は、世界銀行の開発アプローチの切り離せない一部であり、15億人の人びとが電気へのアクセスを欠き、気候変動の影響を日増しに実感する世界においては、ますます不可分な一部と言えます」。

自らの主張の正当性を強化するため、世界銀行は、人口580万人の3分の1が貧困ライン以下で生活するラオスの財運を後押しする皮算用を強調している。NT2のタービンが稼働を始めた今年3月以降、ラオス政府はタイへの売電により560万USドルの収入を得ている、と三輪カントリー・マネージャーはIPSのメールインタビューに答えた。

「(ラオス政府の歳入は)来年は約1000万USドルが予算計上されています」、と三輪カントリー・マネージャーは言う。「25年のコンセッション期間中の歳入は、毎年平均8000万USドルになるでしょう」。

39メートルの高さと1000メガワットの出力を持つNT2 ダム事業から得た外貨は、教育、保健、そして農村インフラ事業に活用されている。200万USドルは貧困地域の教育に、170万USドルは農道整備に、そして100万USドルは公衆衛生事業に活用された、と世界銀行は明らかにした。

タイへの売電は、「東南アジアのバッテリー」となることで国を貧困から抜け出させるというラオス政府の描く青写真の一部だ。ラオスの山岳地域や河川の支流の数々では、ベトナムを含めたエネルギー不足の隣国への売電のため、すでに12のさらなる大規模ダムの建設計画が立てられている。

計画されている大規模ダム事業のほとんどは、世界銀行ではなく、タイや中国、ベトナムの投資家によって支援されているのだが、このシナリオが世界銀行とNGO関係者の対立を招いている。

世界銀行は、ラオスにおける多数のダム計画が、NT2を通して提案された「持続可能な水力発電」モデルに続くものになることを期待していた。「ラオス政府は、NT2ダム事業で得た教訓を他の水力発電事業に当てはめる方法を探るべきです」、と三輪カントリー・マネージャーは言う。「NT2事業からの教訓として、同質の成果を得るためにいかに政府や民間の開発業者、そして世界銀行が協同できるかという点を考えるべきです」。

しかし、NGOらは、現実は異なると警告し、ラオスに建設されたダムは、事業の環境社会影響には関心の薄い民間セクターの投資家が主導する大規模ダム文化のひな型となることを懸念している。

これまでに民間セクターの支援によりラオスで建設された3つのダムは、どれも環境影響評価報告書(EIA)が公開されずに作られた、とアメリカのバークレー市に本部を持つNGO、International Riversのラオス・プログラム・ディレクターである松本郁子氏は言う。「これらのダム事業者は、世界銀行がNT2ダム事業を通して推進していると言っている持続可能なモデルを無視しています」。

「世界銀行はラオスにおける水力発電セクターのスタンダードを向上させたいと宣言したにも関わらず、このような民間セクターの投資家に意見をするのは難しいようです」、と松本氏はインタビューに答えた。「ダム事業者はさらに、NGOからの懸念も無視しているのです」。

(翻訳:メコン・ウォッチ、文責:東智美/メコン・ウォッチ)