欧州・ポルトガルの6人の子どもが、各国政府に温暖化対策実行を求めて、欧州人権裁判所に提訴へ。訴訟資金確保でクラウドファンディングを利用（RIEF）
2017-10-02 15:34:10
途上国の人権・環境問題等に取り組む英国のNPO、GLAN（Global Legal Action Network）はポルトガルで今夏に発生した森林火災で被害を受けた6人の子どもたちが、欧州各国の政府を相手取り、「森林火災の原因は各国が温暖化対策を怠り、異常な気温上昇を招いたからだ」と、欧州人権裁判所（ECHR）に訴える準備を支援している。子どもたちの行動への資金支援のため、クラウドファンディング活動が始まった。
今年6月、ポルトガル中部を中心に、40℃以上の高気温を受けた地域で大規模な森林火災が発生した。火災で60人以上が死亡したほか、各地に大きな被害を及ぼした。森林火災の大きな原因のひとつとなった気温上昇は、温暖化対策の影響が指摘されている。
原告の子どもたちは、各国政府は効果的なCO2排出削減策を本来、実施すべきなのに、十分に取り組んでいないと指摘。結果として、大規模な人権侵害、環境破壊を広めているとして、ECHRに提訴する準備中だ。ECHRにはEU諸国をはじめ欧州諸国47カ国が条約署名をしており、「政策の不備」を認める判決が出ると各国は従わねばならない。
温暖化対策の政策権限を持つ政府が十分に対策をとらない場合、司法の場で責任を問う動きは各国で広がっている。2015年にはオランダのUrganda財団が800人以上のオランダ市民と共同で、オランダ政府を相手取って、温室効果ガス排出量削減をしっかり実施するよう提訴し、勝訴している。また米国でも、Our Children’s Trust（USA）という非営利団体が、子どもや若者が原告になって、高排出量企業などを相手取って訴訟を展開している。
GLANは欧州でも、未来を担う子供たちが訴訟の中心になる形で、各国政府に実効性のある温暖化対策を打ち出させるべきだとの考えで、訴訟に必要な資金をクラウドファンディングで調達する活動を始めた。GLANによると訴訟準備や提訴等に必要な資金は35万ポンド（約5250万円）。訴訟費用専門のオンライン資金調達機関であるCrowdJusticeのプラットフォームで募集を開始した。
GLANの弁護士たちは、ECHR署名の47カ国を被告とするが、とりわけ排出量が多くかつ、政策実行責任の高い国々にターゲットを合わせている。ドイツのほか、フランス、英国、ポーランド、トルコ、ロシアなど22カ国に的を絞る方針という。被告国に対しては、迅速な排出量削減策の実施、化石燃料開発・採掘の禁止などを求める。
ロンドンの法律事務所 Garden Court Chambersの首席弁護士の Marc Willers QC氏は「複数の政府が温暖化対策を十分に実施していないとして、一斉に被告になるケースは珍しい。だが、気候変動の悪化は多くの人権問題を引き起こす。そうなるのは政府がしっかりとした対策をとらないからに尽きる」と指摘している。
GLANは今回、5歳から4 歳までの6人の子どもを訴訟代表に選んだ。プライバシーを理由として現時点で子どもたちの名前は明らかにされていない。ポルトガルの法律家のRita Mota氏によると、彼らは自分の国で異常気象の影響を目の当たりにして、問題を克服すべきとの動機を高めたとしている。
6人の子どものうち4人は森林火災がひどかった Leiria地区の住民。Mota氏は、「森林火災のひどさが、子どもたちに温暖化の影響の深刻さを理解させた」と説明している。
通常、ECHRの手続きは、まず自国の裁判所に提訴し、それでも問題解決ができない場合や一国だけでは対応できないケースなどの場合に、ECHRに提訴する手順となる。この点についてGLANは、原告が求める事態の解決には、多国間レベルでの対応が必要だ、と指摘している。ECHRの署名47カ国のCO2排出量は世界全体の15%を占めている。
CrowdJusticeのファンディングはまず2万ポンドを達成目標とする。もし2万ポンドを集めることができないと、それ以上の寄付募集は停止される。期限は今月25日まで。現在、413人から1万3280ポンドの寄付誓約が示されている（2日現在）。
Research Institute for Environmental Finance