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熊本県の地熱の里「わいた温泉郷」の地熱発電所ファンド。 熊本地震の打撃を乗り越え、クラウドファンディングで新規井戸開発費用調達。住民主体の地熱発電の復活・拡張へ(RIEF)

2017-11-06 07:40:04

 

 熊本県最北端の「わいた温泉郷」で、2016年4月の熊本地震で損傷した地熱発電の生産井戸の代わりとなる地熱井戸掘削費用を、クラウドファンディングで調達する募集が完了した。全国254人から総額770万円が集まった。目標額の3分の1ほどだったが、不足額は売電収入及び借入で充当し、地熱開発は実現するという。地域住民で設立した運営主体の「合同会社わいた会」は、「金額以上に共感者とつながることができる大きなメリットを得た」と手応えを語っている。

 

 「クラウドファンディングで地熱発電を支援する」という試みは、熊本県阿蘇郡小国町の住民たちがニュージック・セキュリティーズのサイト(セキュリテ)で呼び掛けた。同地区は大分県と隣接する「涌蓋山(わいたさん)」の麓にあり、はげの湯・岳の湯の2つの温泉には6軒の温泉旅館がある。有名な由布院と黒川温泉の中間に位置する「秘湯」として温泉ファンに知られている。

 

 同町では2015年に、日本で初めて住民主導による地熱発電所(発電量1950kW)を商用運転した。発電所は高温の蒸気でタービンを回転させてフラッシュ発電方式。大量の蒸気を得られる同地区では、発電能力を大きくできるメリットがある。

 

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 しかし、操業開始もつかの間、2016年の熊本地震で被災し、発電所の生産井が破損した。その後、井戸は破損したものの、使用可能な状態であることがわかり運転を継続できているが、いつ止まるかもしれない。そこで、代わりの地熱井戸を掘るための費用を、クラウドファンディングで募ることにした。

 

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 募集額は2100万円。一口10800円。出資者には2000~3000円相当の特産品(地元産のトマト、にんにく、椎茸、バジルを地熱乾燥室にて乾燥させ、イタリア産エクストラバージンオリーブオイルを加え瓶詰にしたマルシェ商品)を贈呈し、10口以上からは、わいた温泉郷の旅館の宿泊券(1泊2食付き、1名分)を贈呈するなどの特典を付けた。

 

 公募の間にも、井戸の掘削は進められ、井戸は地下800mまで掘削して完成した。同地区では、地熱を活用した発電事業に加えて、農業や観光への展開も視野に入れた地域創生プロジェクトを展開している。集落には数多く地熱が噴気している箇所があり、その蒸気を冬場の暖房、食物や小国杉板の乾燥、蒸し調理等に利用するなど、地域ぐるみ温泉の恩恵を受けている。

 

 実は、わいた地区では約10年前に、大手デベロッパーによる大規模な地熱発電所の建設計画があった。しかし、地熱開発によって温泉の湯に影響が出るのではとの住民の不安も強く、推進派と反対派に分かれ対立した結果、計画は中断された経緯がある。

 

掘削が完成した新しい地熱井戸
掘削が完成した新しい地熱井戸

 

 その後、地域住民の高齢化の進展で地域の活力が失われていく中で、今度は、住民の間から地熱発電の話が浮上した。地域の財産である地熱を活用して、地域を活性化しようという思いだ。住民26人は自らが出資して「合同会社わいた会」を立ち上げ、地熱発電所を稼働させたわけだ。

 

 地震による衝撃にも、住民たちの意思はくじけなかった。新たな資金調達の手法としてクラウドファンディングに目を付けて展開したわけだ。募集額は全体の3分の1程度だったが、わいた会の担当者は、「クラウドファンディングは資金調達上、ありがたいスキーム。資金調達以上に、共感者と直接つながることができることが大きな魅力。支援者の方々と自然、安全、健康といった幸せ感を共に分かち合える」と大きな手応えがあったと評価している。

 

 同会では今後、温泉、地熱発電に加え、今回、出資者への特典として配布する地元産野菜等の瓶詰のマルシェ商品の開発や、食材を収穫後、地熱蒸で調理・食事するといった体験調理教室の開催、イノシシのジビエ・フレンチや別府湾からの新鮮魚介の提供など、地の利を生かしたおもてなしを展開していく計画だ。



 https://www.waita-geothermal.com/