HOME5. 政策関連 |「日本の改定NDCは、科学を否定するのに等しい」。インド、香港の環境研究者が日本政府のNDCを批判論文(RIEF) |

「日本の改定NDCは、科学を否定するのに等しい」。インド、香港の環境研究者が日本政府のNDCを批判論文(RIEF)

2020-04-06 08:00:17

NDC2キャプチャ

 

  新型コロナウイルス騒動の間隙を縫うようにして、日本政府が国連に提出したパリ協定での国別対策貢献(NDC)の改定版に対する内外の風当たりが厳しい。日本の温室効果ガス排出量は世界第5位であるのに、京都議定書での削減目標も未だに達成できず、先進国で唯一、新規の石炭火力発電所建設計画を推進しているなど、パリ協定の目標達成と逆行する動きをとっているためだ。インド、香港の研究者が英メディア「Climate Home News」に「日本の恥ずべき気候計画は、科学を否定するのに等しい(Japan’s woeful climate plan amounts to science denial)」と題する論考を公表した。以下はその仮訳。

 

 (By Vijeta Rattani and Shekhar Deepak Singh)。

 日本は最近、2030年の国別対策貢献(NDC)の古い目標をほとんどそのままに、「新たな」気候行動だと繰り返して、国連に提出した。これは、新型コロナウイルス感染が地球を巻き込んでいるように、地球全体の気候変動目標を達成するうえでは、恥ずべき不適合であるだけでなく、科学を否定し、悪い先例を設けることになる。

 

 すでに、米国のような大排出国がパリ協定の目標をより不透明にしている。そこに日本が今回提出したNDCは、より事態を混迷させるものだ。たとえ、COP26がコロナウイルスの影響で延期されたとはいえ、気候変動に対処するための闘いの重要性は変わらない。

 

 これまでの温室効果ガス排出量の増大は、洪水や森林火災、熱波、干害等の異常気象の形となって、世界中で大損害を引き起こしている。にもかかわらず、世界の大規模排出国である中国、米国、インド、ロシア、そして日本は、2018年には全世界の62%という途方もない温室効果ガスを排出し続けている。

 

 国民一人当たりの排出量は、先進産業社会と途上国世界との歪んだ分断を示している。先進国はその気候変動を創り出した歴史的な責任に応じた積極的な役割を求められる。しかし、日本のNDCにはそうした「野心」が欠けている。

 

 パリ協定が設定している世界の気温上昇を産業革命前から2℃よりも十分低く抑えるという目標を達成するために、内外の市民団体、島嶼部諸国や最貧国途上国の政府等は、気候危機を解決するために先進国諸国がより大きな「野心」を持って行動するよう要請してきている。

 

 しかし、世界第5位の温室効果ガス排出国であり、一人当たり排出量も米国に近づいている日本は、この気候危機に対して、本当に微々たる責任しか示していない。実際に、今回の改定NDCは、旧来の目標を繰り返しているだけだ。

 

 2015年のパリ協定において、日本が2030年までに温室効果ガス排出量を26%削減(2013年比)するとの最初のNDCを提出した際も、環境団体は日本を「先進国の中でもっとも弱い努力しかしていない」と最低ランクをつけた。にもかかわらず、日本は今回、改定NDCとして、この目標値をそのまま踏襲し、国連が各国に求めているNDCの強化要請を無視した。

 

 改定NDCの中身も、長期の排出量削減の手順についての詳細を示さず、あいまいな内容となっている。さらに、協定が求めるもう一つの主要要求事項である国内の気候対策体制を透明化することも無視している。明らかに、日本の改定NDCは、適正なパブリックコンサルテーションのプロセスも踏んでいない。

 

 日本は何をしようとしているのだろうか。生態学的見地からいえば、日本は国内の主要な自然資源に依存しておらず、必要な経済発展を満たすため膨大な化石燃料を輸入に依存している。そうしたこともあって、日本は、ドイツや中国、インドなどの国々が太陽発電プログラムを積極的に展開するよりもはるか前に、サンシャイン計画、ムーンライト計画等の技術計画で大きな成功を得てきた。2000年までは、日本は地球上のほぼ半分の太陽光パネルの供給者であり設置者だった。さらに2011年の東京電力福島第一原発事故前までは、原子力発電は発電全体の14%を占めていた。

 

 京都議定書では、日本は90年比6%の排出量削減を、議定書の2008~2012年の最初のコミットメント期間で公約した。こうした歴史的環境や公約にもかかわらず、日本は実際に排出削減を進めるのではなく、他国からのクレジットの購入等で排出量をオフセットする選択を進めてきた。省エネのような手法で、2050年の排出量を半減させる「クール・プラン」や、石炭への課税は、不十分で非常に非効率とされてきた。

 

 国際的な気候交渉では、日本はしばしば、歴史的にも最大の排出国である米国と協調的な共同行動をとってきた。すなわち、野心的な行動に抵抗し、「クリーンコール」を推進し、途上国に技術移転とファイナンスを提供することを拒否するような点でも共通行動をとってきた。

 

 東南アジア地域で石炭事業と原発技術を促進することをうたった、2017年の日米戦略的エネルギーパートナーシップ(JUSEP)はその典型例だ。初めは称賛されたが、実際の気候行動にはつながらなかった。そして「フクシマ後」は、日本のエネルギーはドラマチックに変貌した。

 

 2010年代に日本の太陽光発電産業は、外国の競争相手に勝てなくなった。中国との尖閣諸島をめぐる攻防後、中国が太陽光等に必要なレアアース(インディウム等)の輸出規制を強化したことで、さらに日本の太陽光発電プログラムはしぼんでしまった。

 

 さらに、日本以外の国々が太陽光発電分野で革新的システムを進展させた効果を(日本政府が)見落としたことで、事態はさらに悪化した。風力発電事業も、地震の多い地域での厳格な環境、技術基準を変えることなくきたため、発展できなかった。

 

 こうした環境下で、日本政府は太陽光産業を再構築することに力を入れず、より簡単なオプション、すなわち、石炭火力発電の推進に大規模な転換をするという選択をとった。現在、日本は90以上の石炭火力発電を稼働させており、さらに22の新規計画を抱えている。発電量の3分の1以上を石炭に頼っているわけで、その結果、CO2排出量は増大につながっている。

 

 そうした政策を推進する経済産業省は、化石燃料ロビーによって支えられ、日本の気候目標を左右するエネルギー計画の決定権を握っている。

 

 今回の現状維持の改定NDCの提出で、日本はアジアでの気候リーダーとなる機会を逸した。アジアでは中国やインドが、化石燃料依存を削減し、エネルギー・経済構造の転換を目指す中で、再生可能エネルギーにスイッチする努力を進めている。

 

 まず最初に、日本は科学に基づいた気候目標への改定を急がねばならない。さらに、すべての国内のステークホルダーを巻き込んだ透明な気候対策体制を作り出して、脱炭素への明確な行動を伴った再生可能エネルギーへのシフトを進める必要がある。新型コロナウイルスの影響による景気減速は、気候変動の分野で行動をとらない理由にはならない。

 

 世界は、富裕排出国の偽りの対応を、そのまま受け止めてくれるほど寛容ではない。(日本の)気候対策を無視する行動は、世界中からこぞって反発を受けるものだ。気候野心を高めることは、もはや選択の問題ではないのだ。

 

 Dr Vijeta Rattani works on climate change issues and is based in New Delhi. Dr Shekhar Deepak Singh is a post-doctoral researcher at the Chinese University of Hong Kong specialising on issues of Energy Policy, Environment and Sustainable Development. Views expressed are personal.

https://www.climatechangenews.com/2020/04/03/japans-woeful-climate-plan-amounts-science-denial/