HOME8.温暖化・気候変動 |CO2回収貯留、景気悪化で普及に暗雲 (National Geographic) |

CO2回収貯留、景気悪化で普及に暗雲 (National Geographic)

2012-05-24 10:02:41

アメリカ、ウェストバージニア州のマウンテニア発電所では2011年、二酸化炭素(CO2)回収貯留(CCS)プロジェクトが経済的な理由により中止されている。写真は、回収したCO2の温度と圧力をチェックする装置。
アメリカ、ウェストバージニア州のマウンテニア発電所では2011年、二酸化炭素(CO2)回収貯留(CCS)プロジェクトが経済的な理由により中止されている。写真は、回収したCO2の温度と圧力をチェックする装置。


世界規模で化石燃料を使用した火力発電が増加する中、二酸化炭素(CO2)回収貯留(CCS)技術に注目が集まっている。大気中に放出されるCO2を回収、貯留するCSS技術は、温室効果ガス抑制の切り札となる可能性がある。ところが、高コストが災いしプロジェクトが相次いで失速、普及が危ぶまれている。

多くの企業が、高額なCCSプロジェクトでは投資を回収できないと判断している。収益を得るには、世界最大のEU排出量取引制度(ETS)や新興市場よりもはるかに高い排出権価格を設定することや、政府によるCCSの義務付けが必要だと主張する。非営利の民間研究機関であるワールドウォッチ研究所の最新レポートによると、現在進行中のCCSを完全採用した大規模プロジェクトはわずか8件のみで、3年前から停滞しているという。

「2010年から2011年にかけて、稼働中、建設中あるいは計画段階の大規模プロジェクトは減少した」とレポートの著者マット・ラッキー(Matt Lucky)氏は述べる。さらに、ヨーロッパや北米では多くのプロジェクトが完全に放棄されているという。2012年4月には、カナダの大手電力会社トランスアルタ(TransAlta)社が、CCSへの高額投資には金銭的インセンティブが十分ではないとして、同国アルバータ州の石炭火力発電所への設置計画を断念した。

「CCS業界はいまだ発展途上で非常に小規模だ。計画されていた多くのプロジェクトが中止になるのは良い兆候ではない」とラッキー氏は眉をひそめる。「本来ならば今こそ成長しなければならないが、しばらくは業界の飛躍的な発展は見込めないだろう」。

◆CCS市場の確立が必要

 CCS技術では生成されたCO2を集めて、さまざまな方式で地中に恒久的に貯留、温室効果ガスの排出を削減する。国際エネルギー機関(IEA)によると、CO2排出元の化石燃料を使う発電所や他の産業施設にCCSを導入すると、温室効果ガス排出を大幅に減らすことが可能という。IEAの公式サイトには、今世紀半ばまでにCCSを導入した発電所数が3000を超えれば、予想されるCO2排出量の20%削減を達成できるとしている。しかし現時点では、発電所での大規模なプロジェクトは進行しておらず、「業界拡大に向けた取り組みは大部分が保留状態にある」とマサチューセッツ工科大学(MIT)のハワード・ヘルツォーク(Howard Herzog)氏は述べている。

「いまだにCCS市場が確立されていないことが一番の問題だと思う。気候政策を欠いているせいだ」とヘルツォーク氏。「CCSは大気中へのCO2の排出量削減には有効だが、導入コストがかさむ点がネックだ。導入を義務化するポリシーが策定されない限り、改善は期待できそうもない」。

 アメリカは効果的な気候政策を策定できないでいるが、その他の国も、世界トップクラスの排出国抜きにCO2削減の義務化に関する強固な国際的合意を形成するのは困難と考えている。削減に向けた措置を講じた企業は排出権(クレジット)を得る一方、対策に積極的ではない企業は新たなコストを負担する、市場原理を活用した排出取引も国際的合意の不在が原因となり順調ではない。高額なCCSの発展には、排出取引などの仕組みが不可欠である。

◆不確かな実現

 仮に再生可能エネルギーへの投資が拡大したとしても、今後25年は化石燃料が世界のエネルギー供給の75%を占めるとIEAは予測している。今世紀半ばまでに温室効果ガス排出量の50%削減という目標が掲げられており、CCSは重要な役割を果たす可能性があるが、必要な投資額は5兆ドル(約400兆円)とIEAは見積もっている。短期的に見ると、実現は不可能な額にも思える。

「対策の進展は数年前からほとんど変わっていない」とラッキー氏は述べる。「現在の措置も、地球規模でいえば明らかに不十分だ。有望な計画や研究はあるが、実施までこぎ着けた例は極めて少ない」。

 

http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20120523002&expand#title