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気候・エネルギー政策への経団連の「関与」は、電力・鉄鋼等「日本経済の10%以下の代表性」しかない特定産業の意見に偏重。英データ分析会社が指摘(RIEF)

2020-08-10 08:17:13

Keidanren003キャプチャ

 

   日本の経団連は石炭中心の気候・エネルギー政策を支援しているが、その政策を主張する中心産業団体は7団体に過ぎず、合計雇用者数は270万人と日本経済のわずか10%以下で、日本経済を代表していない、と英レポートが指摘している。限定的な重厚長大産業の意向に沿った経団連のエネルギー選好は、経産省のエネルギー政策と密接に連携する形で、日本のエネルギー政策を20年以上にわたって牛耳る形となっており、その姿は海外の目にも奇異にとらえられている。

 

 (上図は、横軸が気候・エネルギー政策への賛否㊨に行くほど積極的な気候政策支持㊧は反対派、縦軸は政策への関与度㊤に行くほど関与しているが、㊦にいくほど関与度が薄い)

 

 レポートは英データ分析会社のInfluenceMapが「Japanese Industry Groups and Climate Policy」と題して公表した。レポートは3段階のアプローチをとっている。第1段階は、日本経済の成長、雇用、付加価値への貢献を分析し、日本経済にとってもっと重要な産業セクターを抽出。第2段階では、経団連加盟の109産業の分析のほか、経団連非加盟の他の産業も分析し、どの産業が日本経済を最も代表するかを選択する。第3段階は各産業による気候政策への関与度合いを評価する、という手順だ。

 

 その結果、気候・エネルギー政策への関与度の高い産業は、電力、鉄鋼、セメント、自動車、化石燃料関連事業等の7業界団体。もっとも強硬な団体は、日本鉄鋼連盟と電気事業連合会。これらの産業の経済的代表性は、雇用数でみると日本経済全体の10%以下でしかない。ただ、気候・エネルギー分野は、一般消費者の需要に密接に関連する小売業、投融資リスクを受ける金融業、省エネ化を進める建設業等にも幅広く影響する。これらの産業は、気候・エネルギー政策への関与度の高い産業よりも10倍以上も雇用を抱える。

 

日本経済の産業別重要度の
日本経済における産業別重要度の比率(InfluenceMapレポートから)

 

 電力、鉄鋼等の産業は、気候政策の変更による自らの産業への影響が大きいことで共通することから、気候・エネルギー政策の変更を抑制する経産省の政策を支持し、それが経団連の代表的意見とされてきたのが経緯である。

 

 InfluenceMapは、これらの産業代表や経団連の専門家は、単に政府に要望を出すだけでなく、気候・エネルギー政策を論じる経産省や環境省の審議会等の委員を務め、気候政策の「中心的交渉役」として20年以上も活動してきた、と指摘する。しかし、「経団連は日本のすべての産業界を代表すると主張するが、気候・エネルギー政策においては、明らかにそうした主張には疑問がある」と述べている。

 

 さらにレポートは、経団連の気候・エネルギー政策が特定少数の産業の意見しか反映していないとみる根拠として、昨年、政府が閣議決定した「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」で2050年の目標を80%削減と設定したことを、経団連が「非常に野心的」と高く評価した点をあげている。

 

経団連の気候・エネルギー政策に影響力を及ぼす主要産業団体
経団連の気候・エネルギー政策に影響力を及ぼす主要産業団体

 

 というのは、その後、日本政府は「カーボンニュートラル(実質ゼロエミッション)の達成は2050年ではなく、「今世紀後半にできるだけ早い時期」とあいまいに説明している。EUをはじめ、世界の主要な国・地域が「2050年実質ゼロ」を目標化する中では、こうした日本の政策は、「きわめて後退的」との評価を受けている。経団連による「長期戦略の称賛」も自分たちの主張が盛り込まれたことを評価しているだけとみられている。

 

 ロイター通信によると、InflienceMapの指摘に対して、経団連は、「レポートを受け取っていない」として、公式なコメントを避けているという。一方で、経団連としては低炭素社会へのコミットをすでにしており、日本政府の気候目標(NDC)もパリ協定の目標と整合的だと回答したという。

 

 レポートは、経団連の化石燃料支持産業以外の産業グループからは政府の気候政策への厳しい批判が出ていることも紹介している。小売、金融、ハイテク、建設産業等がそれらの中心。これらの産業の代表的企業は、政府に気候変動対策の加速化を促す自発的な民間団体である「Japan Climate Initiative(JCI)」や「Japan Climate Leaders’ Partnership(JCLP)」等を通じた活動を展開している。

 

 日本は2011年の東京電力福島第一原発事故後、原発停止の穴埋めとして経産省が石炭火力発電シフトを打ち出し、現在の発電量の32%を石炭火力が占める。また新規建設計画も約20件とG7諸国の中でもっとも多い。さすがの経産省も7月初めに、石炭火力のうち、1990年代前半までに設立した非効率な発電所約100基を、2030年度までに段階的に休廃止する方針を打ち出した。だが、その一方で、超々臨界圧火力発電(USC)などの高効率な発電所は維持・拡大する「石炭政策」の維持を表明している。http://rief-jp.org/ct8/104337?ctid=71

 

 レポートは結論として、日本の気候・エネルギー政策への企業・産業の関与は、日本経済全体を幅広くカバーするような代表性に基づいて再構築するべきとしている。特に、小売、金融、ロジスティック、建設、不動産等の主要産業が、もっと気候・エネルギー政策における各産業のポジションを明確化して、積極的に政策関与のために行動すべき、と求めている。

https://influencemap.org/presentation/Japanese-Industry-Groups-and-Climate-Policy-899704d005cb96359cc5b5e2a9b18a840%