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米国のパリ協定離脱からの復帰。バイデン氏は明言したが、同氏の大統領就任でも、「協定復帰」は簡単ではない。連邦上院選挙の動向が課題に(RIEF)

2020-11-08 14:04:30

Biden001キャプチャ

 

  米大統領選挙は民主党のバイデン氏の勝利がほぼ確定した。同氏は就任したら、トランプ大統領によるパリ協定離脱を撤回して、協定に再加入する方針を明確にしている。ただ、大統領選と同時実施の米議会選挙での上院選の動向が微妙であるほか、パリ協定に基づく国別対策貢献(NDCs)の強化に対応する必要もああり、米国の協定再加入がすんなりと実現するかは予断を許さない。

 

 米国は4日、パリ協定から正式に離脱した。同日、バイデン氏はツイッターで、「自分が政権を取れば協定に再加入する」と投稿した。再加入の日については、大統領就任式の来年1月20日とすることにまで言及した。再加入は国連に文書を提出して30日後に認められるため、最短で2月19日となることが期待されている。

 

 ただ、そのシナリオ通りにいくためには、かなり厳しいハードルがある。米国でも、条約の承認は本来は議会の承認が必要だ。合衆国憲法では上院の3分の2以上の同意という批准手続きを定めている。しかし、オバマ前大統領は2015年のパリ協定に調印するに際して、共和党が多数を占める上院の承認を得ず、大統領令に基づいて決定した。

 

 その理由として、当時のオバマ政権は、米国が協定で公約したNDC(2025年時点で2005年比26~28%の削減)について、仮に削減目標が達成されない場合でも、協定には罰則規定が無く、協定の排出削減目標は法的拘束力を持たないので、条約には該当しない、という解釈に基づき、議会に諮らずに協定批准を宣言した経緯がある。

 

 当時の上院の構成は、共和党多数で、条約の批准は見込めない状況にあった。そこでオバマ政権は、「議会での批准」をスキップしたわけだ。こうした対応が特殊かというと、必ずしもそうではないようだ。米国では正規の批准手続きを伴わず、大統領令等に基づく「行政協定」による国際的取決めがよく行われており、そうしたことを認める法解釈も定着しているという。

 

 ただ、今回も、バイデン氏が同様の大統領令による行政協定で協定復帰ができるかとなると、微妙だ。まず、パリ協定自体のハードルがアップしている点だ。来年予定される国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の最大の課題は、現行のNDCsの強化改定であり、米国が復帰する場合、パリ協定で示した「2005年比26~28%の削減」の目標の積み上げが期待される。

 

 気候変動政策で米国がリーダーシップを目指すとすれば、EUが目指す「2050年ネットゼロ、2030年55%削減」の意欲的な目標にそん色のないNDC改定が必要になってくる。だが、そうした目標引き上げを宣言しても、法的拘束力がない措置ならば、内外の信頼を得られるのか、という疑問が生じる。

 

 現在は世界中、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、温室効果ガス排出量は減少傾向にある。だが、コロナ克服の後は、回復需要も集中するので、排出量の増大が予想される。オバマ政権は石炭火力発電等の排出量規制のため、連邦上院のカベをかいくぐる手法として州法による新規石炭火力規制を導入しようとした。だが、そうした「搦め手法」も、トランプ政権によって司法で差し止め状態となっている。

 

 トランプ政権下での米環境保護庁(EPA)は温暖化規制をはじめ、多くの環境規制を緩和してきた。そうした環境下で、高い目標に切り替えたNDCに現実性を持たせるには、やはり効果のある排出規制の強化が必要と考えられる。そうなると、議会での法案成立が不可欠になる。

 こうした状況を考えると、上院の批准同意を抜きにした条約への復帰は、説得力を欠くとの見方も出てくる。では上院で多数を握れるのかというと、困難な状況にある。

 

 現在、上院選挙は大統領選挙同様、混戦が続いている。上院の議席(定数100)は非改選議席を含めて、現在、共和党48、民主党48(無所属2を含む)で同数。残り4議席のうち、現在選挙で争っているジョージア州の2議席は来年1月に決選投票に持ち込まれる見通しという。同州は大統領選でも最終的なカギを握る州でもある。

 

 他のアラスカ、ノースカロライナの2議席は共和党現職が優位。上院では副大統領が議長を務め、採決が同数の場合は決裁票を投じることができる。したがって民主党が上院で優位に立つには、ジョージアの2議席を何とか確保して、最低50議席を確保する必要がある。だが、それは難しいとの見方が多い。すでに下院では民主党は過半数の獲得を確実にしているので、米議会は再び、ねじれ議会になる公算が高い。

 

 パリ協定のNDCsの扱いでは、米国については当初通りの目標を認めるということも考えられる。だが、それで米国のメンツが立つのかという懸念が出てくる。中国の習近平国家主席も、2060年までのネットゼロと30年までの排出量ピークアウトを宣言している。世界第二位の排出量の米国が従来通りの目標水準では温暖化外交での主導権を握れないのは明白だ。バイデン氏は大統領就任早々に、こうした難題に取り組むことになる。

                           (藤井良広)